社員の幸せ

SESは、経営にとっては比較的「楽」な業態だと思っています。従来から書いているようにマーケティングや高度な業種知識を求められないだけでも、この理解は間違っていないでしょう。では、そこに属している社員さんにとって、良い業態なのでしょうか?
社員の方々の個性や目標、そして置かれている状況によって、その評価は千差万別だと思います。ただ、私が他の人に薦められるかと言えば…NOです。
・グレーと言われる業態 SESと派遣。実態としては酷似しています。ただ建前上、SESは「(準)委任契約」、派遣は「派遣契約」として分かれており、契約の趣旨から言えばSESでお客様先に常駐しているような場合、お客様はSEさんに直接の指示は出せないことになっています。が、実態として下請で入ったSEの扱いは?元請側は同席するだけで、実質の指示はお客様が出している。など、派遣との差異を見出すことは困難な状況があるのではないでしょうか? では派遣で良いじゃないかと言われると、いわゆる三年ルールがあり、三年の継続派遣で正社員登用をしなくてはならないと言う理由から、雇い止めや長期契約機会の逸失が起きかねないのですね。その回避策がSESにあると理解しています。 「って事は、派遣の言い換え、三年ルール破りの合法化みたいなもんだよね」と言われれば、完全に同意します。だって中には派遣会社をチャネルにしてSEさんを派遣!している会社もあるんですから。 これが「グレー」と言われる状況です。私は頭が固いので「グレーって何だよ!」と思ってしまうのです。実際、グレーの中で何か問題があれば、あっと言う間にブラック(法規制)が行われてしまうのが常です。そんな状況で「人材」に依存するSES会社が安泰とは思えないのです。
・スキルの醸成 本当に長期に亘ってお客様先に常駐しているSEさんを何人も存じ上げています。彼らは押しなべて、お客様システムの実態については、お客様以上に詳しく、何かの構想が湧き上がったときに、実装が可能なのかをヒアリングする重要な情報源になっています。ただ、この情報はかなり特殊な情報になっていると思うのです。というのは、こういった場面にいる人たちの多くが保守系、また基盤系を得意分野にしていてアプリケーションには余り深くタッチしていないことが多いのです。そのため、出して頂くような情報の多くはバッチのタイミングや方式、そのフォーマットなどであり、算定される内容や業務的な意味に踏み込まれるケースは少ないのですね。更に言えば、開発時点の各種仕様が彼らに引き継がれていないケースも多く、改修作業が発生すると、開発を行ったベンダーあるいはチームが実施することになります。これで廻っているのですから…。本当は少し感動すべきかもしれません。 逆に言えば再分化され、かつ、プロジェクトではなくプログラム的な無期限の状況になかったら、業務的なアプローチからは更に遠ざかるしかありません。こうなると、人材に求められるのは、実態としてのスキル(知識+経験)よりも、柔軟性にばかり目がいくことになります。・会社への意識 SESでは本来、指示系統はお客様⇒自社⇒SEである必要があります。が、実態はお客様⇒SEです。長期であれば、お客様との関係性がほぼ同一組織での動きになっていたりします。で、これが有期、中短期のプロジェクトでは単に発注元⇒下請という動き方になるばかりで、長期・中短期のいずれの場合でも「自社」を意識する機会が少ないのです。会社によっては、定期的かつ半強制的に社外に常駐するSEさん同士の交流の場を作っているようですが、実態としては…会社として何をしているという訳ではないのですね。 では、会社が何かといえば給与の支払い元で、愚痴の対象となっているばかりと言うのが実情ではないでしょうか?「俺、SESじゃないけど同じ」と言われる方も多いとは思います。でも、その濃度は…たぶんSESほどではないんじゃないでしょうか。・給与 多層的下請構造の中で、様々なリスクや責任を回避するようなビジネスモデルを形成し、更に営業・マーケティングコストを最小化しているのがSES会社です。その影響は「給与」に反映されます。これは労働集約構造で立ちまわる企業の宿命的な部分でしょう。ただ、一部の、そしてプライム系の企業になると、更に一部の社員や経営陣は多きな所得を得ているケースもあるようですが、中堅以下のサイズでは経営陣と言っても、エグゼクティブ!と言えるまでの水準にはないかと思います。・人材の確保 最近では、当たり前のように「人が来ない」と言う話を聞きます。普通に考えましょう。ロストジェネレーションより以前の人たちは、安定した凝集があると信じていましたから、福利厚生や安定性を企業選択の基準においていました。ロストジェネレーションでは、入れる会社を見つける状況が主でしたね。そして、この数年は安定性よりも自分の将来に役立つかと言う条件、言葉を端折れば「所得」がポイントになるのは当然の帰結でしょう。 その点で言えば、IT業界、特にSESを主とした会社は魅力がないのです。多層的な請負構造としては、建築業でも品質の低下や偽装請負、対価の低下が懸念されています。http://www.mlit.go.jp/common/001132804.pdfまた、輸送や飲食、介護などのサービス業の他、農業などの一次産業はSESと同様の労働集約型産業ですが、少し古い資料ですが、下記で例示されている介護・建設・農業のいずれもが賃金の低さを課題としています。http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11601000-Shokugyouanteikyoku-Soumuka/62-75.pdfまた、この中で面白いのは、賃金の上昇は企業収益に基づく発想が主で、雇用の確保は軽視されていることです。これが即ち「悪循環」の基礎になっているのです。また、少し面白い記事を見つけています。https://toyokeizai.net/articles/-/166253この記事を見ると「ほら、IT業界だって凄いんだよ!」と言われるでしょうねぇ…。でも、リストの中身を見てみましょう。KLab:ソーシャルゲームの開発・運営や受託開発などを主業とするリプセンス:人材・不動産のマッチングサイトモルフォ:画像処理技術の研究開発および製品開発ソースネクスト:PC向けパッケージソフトの開発・販売サイボウズグループウェアの開発、販売、運用バーチャレクス・コンサルティングコンサルティングアウトソーシングサービスおよびソフトウェアの提供オールアバウト:専門ガイドによる総合情報サイトの運営ころぷら:オンラインゲームの開発・運営SHIFT:コンピュータプログラムのテスト仕様を生成するための装置およびプログラムソフトブレーン:営業支援システムやコンサルティング、教育などのサービスを提供フィックスターズ:マルチコアシステムはてなナレッジコミュニティ、ブログホスティングソーシャルブックマークサービスなどの開発・運営enish:ソーシャルアプリの開発・運営NSDSIer(子会社でパッケージの開発・販売もあり)
基本、どの会社も自社が開発した「モノ」を中心にしたビジネスだというのが一つですね。また、ソフトブレーンやバーチャレクスはコンサルティングと言っおり、恐らく月額の単価(SEさんの値づけ)が高いのかな?(と完全な雰囲気で書いてます)また、NSDさんはサイトを見る限り、とても地味!なのです。が、一つ一つに細かな「概要図」(って変な日本語になってしまいました)が書かれている事から、SIerとは言っても知見は溜め込んだと言う事なのでしょうか。そして、2017年の有価証券報告書を見てみると…。提出会社の状況 従業員数 平均年齢 平均勤続年数 平均所得2967 38.1 13.4 6192と言う記載があります。正直…平均的な?感じでしかないですね…。そして、これら3社以外を見れば、先ほども書いたように自社の「モノ」があるのです。この状況はSIerが言う「事業会社」と変わらないのです。社員の幸せって何?って考えたら、中々、SESで実現できるのかなぁ?

ネゴから逃げるな!

よく「お客さんと話をしていると活き活きしてますよね」とか言われます。実際、辛い打ち合わせでも生命力…とでも言うのか、やりがいを感じることは多かったように思います。
特にネゴの場面では「わたしさんだから言えるんですよ」と言われる事も何度もありました。本人としては普通に話しているだけなのですがね(笑)。
実際、なぜそう言うのか、そしてそう言われるのかを私流に分析してみましょう。

まず自分ができない事が多い人間だという事を自覚している事が強いんでしょうね(笑)。それだけに、できるか(やれるのか)、それともできないのか。出来るのであれば、いつまでに、どんな内容でできるのかを話します。時に「やりたくない」ことがあると話しながらでも、その理由を探します。その時に浮かび上がる理由から「面倒くさい」は除外しますね(笑)。それ以外の「やる意味が不鮮明」、「やる事で他に悪影響がある」など、相手の方に判って頂けるような理由が有るはずなのです。
では、これをチームや組織として回答する場合です。打ち合わせで俎上に上がる内容は、何かしら事前に検討しているはずです。その時に、打ち合わせの主眼やゴール、リスクなどが含まれていれば、不意に回答を求められても実はそれほどあわてる事はありません。
別の言い方をすれば、その場であわてる原因として「準備不足」、そして準備の不足も含めた「想定」の対象にあると思うのです。
あ、後一つは知識の不足です…これは、私にとって一番辛い(汗)。

他社の方との初同行での顧客訪問で「さっき説明していたあの事例、今度、教えてくださいよ」と言われる事があります。実は付け焼刃で取り寄せていた情報なのですが、恐らく突っ込まれるであろうポイントが判っていれば、付け焼刃でも説明は出来ます。寧ろ練りに練ったような情報でも、その場で浮かばなければ、何も価値は無いのですね。最近の言い方だと「刺さるポイント」って奴でしょうか。
刺さるポイントは人それぞれ違うのですが、重要なことは理解していることを伝えるだけではなく、その相手の立場でなら、どのような利益があるのかもあわせて伝えることだと思います。これがなければ「カタログ持ってきたので、読んでおいてください」と同じです。
そして、刺さりそうなポイントをパワーポイントや資料だけではなく、頭の中にも幾つか用意しておけば余りあわてる事は無いでしょう。

ではネゴです。よくネゴシエーションとコミュニケーションを取り違えている人がいるので、改めて
ネゴシエーション:交渉とは、合意に到達することを目指して討議すること。 wiki - 交渉
コミュニケーション:人間の間で行われる知覚・感情・思考の伝達。 wiki - コミュニケーション

似ているけれど違うのですね。基本、コミュニケーションの上でのネゴシエーションですが、コミュニケーション自体がゴール設定を必要としない「伝達」で済む場合も有るのに対して、ネゴシエーションは「合意に到達する」と言うゴールが設定されます。特にベンダー側の立場で打ち合わせなどに参加する場合、その場をコミュニケーションではなく何らかのネゴシエーションが発生する場として考えなければならないでしょう。

この下敷きの上で会議体に臨もうと思えば、
・主題の確認、討議ポイントの想定
・資料提示の必要性、有為性の想定
・参加者からの問い合わせ想定
が必要です。「顔合わせだけだから、参加して」といわれた打ち合わせほど痛い目にあう事が多いのです。だって準備できていないんですからね。
また、更に長い目線での準備も必要でしょう。例えば、技術的な作業が一番軽いSaaS代理店ビジネスなら
売る
 L 市場調査
   L ニーズ把握
   L 競合把握
     L価格状況調査
 L 機能調査・学習
 L 優位性・劣位性把握
 L 事例学習
 L コラテラル作成
 L デモ作成・構成
 L プレゼン
   L 構成
   L 想定Q&A
 L Webページ構築
   L ベンダー調整
これくらいは最低でも掛かるでしょう。
これに対して、長期目線となると
構築
 L 導入プランニング
   L 必須要員役割リスト
   L 社内外 要員募集計画
   L 社内外 要員募集実施
     L 書類選考
     L 面談
   L プロジェクト実施
     L プロジェクト計画
     L 導入
     L カットオーバー
サポート
   L サポート
     L 自社サポート
     L ベンダーサポート
   L サービスレベル
     L ベンダーサービスレベル調査
     L 他社実施状況調査
     L 要求
      L 原案取りまとめ
      L 要求内容精査
     L SLA策定
と、そして個別個別に文書の取り交わしや契約としての締結が動きます。
しばしば、SES会社が見落としているのが、構築・サポートの範囲です。全く見落としているのではなく、収益としてのソロバンは弾いているのですが、やるべきことが決まっていない事が多いのですね。きつい言い方をすると自分の都合については良く考えているのですが、お客様が気にしている点は見過ごしているのです。「べき論」としては、売るための準備に入ったら、同時に構築・サポートも将来をきちんと見据えて可能なところから「済」とマークできるようにすべきでしょう。

そう、上手くネゴをとるためには、単に経験を積むだけではなく、必要な調査や情報収集、準備をしておく必要がある!って言うことなんです。

話せるだけで「英語できます」って、あり得ないんですけど

皆さんは英語、できますか?

外資にいると当たり前のように英語ができるものだと思われるのですが…実態とは違いますね。必死になって英文をGoogle翻訳に突っ込んで理解しようとする人もいますし、流暢に話す人もいます。そして「俺、できない」と捨て鉢になっているような人も中にはいます。
ただ日本人の「できない」は余り信用していません。ま、それは置いておきましょう。

以前、人の採用で苦労したのが「英語」です。履歴書や経歴書でTOEICのスコアや英語を使った業務などを華々しく書いている方は多いのですが、実際に話してみると「からっきし」と言うレベルで終わることが少なくありません。読み書きだけなら、GoogleなどのWebアプリで何とかなると思い込んでいても「それ、機密性の高いドキュメントだからGoogleとか禁止ね」と言った瞬間にお手上げになる人もいます。単語だけ検索すれば何とかなると思うのですが…どうもね。

IT屋のはしくれで見ていると「よく英語を使わずに偉そうに言うよな」と言う場面が少なからずあります。やはりOSからアプリケーションまで英語圏を母国としている製品が多く、また事例などを求めに行くと、どうしてもGoogleでも検索対象を英語にしないと欲しい情報が出てきません。また、外資に勤めていると、最新の情報を持っている本社や各国の同僚と会話しないと何も最新情報が出てこないのです。そして、こういった日頃のコミュニケーションが、実際に会ったときには更に親密になる大切な要素になるのです。言葉は大切です。

で、そんな私が見た最悪なケースを書いておきましょう。
あるSES系の会社さんが代理店として提示した「要望」を本社にエスカレーションしたときの事です。本気度が高く、こちらでも重要性が高いと思った要望ほど本社との会話には代理店さんも参加してもらうことにしています。その時の言語は「英語」になります。その際、窓口担当のマネージャーさんと日時や参加者の調整をしたのです。内容は技術的な課題の解消で、本社が対応したくないことは事前のやりとりで理解していました。そこで、マネージャーさんには参加必須、そしてマネージャーさんが英語に不安があると言う事で外国人の若いエンジニアさんにも通訳的に同席を頂くことにしたのです。ただ若いエンジニアさんは社会人経験ゼロ年。新人さんです。青すぎます。そこで「通訳として機能するか…心配なのですが、大丈夫なのですか?」とマネージャー氏に再三確認をしたのです。その返事は、毎回定型句で「英語も日本語も問題ないよ。日本語で書くのは不安かもだけど、話すだけだもんね」と一切取り合ってもらえませんでした。
そして電話会議です。こちらから状況の説明をし、本社サイドからはSES会社さんに課題の詳細について更に説明を求められます。すると外国人エンジニアさんが「物すごーーーーーーーーーーーーーーーく」ザックリと話して言葉が止まりました。彼は主題について理解していなかったのです。仕方なしに私から補足説明を「物すごーーーーーーーーーーーーーーーく」詳細に語らなければなりません。通訳として期待していたのに、マネージャーさんは何も語らず、エンジニアに丸投げだったのです。そして本社から「更に物すごーーーーーーーーーーーーーーーく」対応したくない理由を並べてきたのです。そこで私からやる必要があること、そして補足をマネージャーさんに振りました。するとマネージャーさんはエンジニアに「やらなきゃならん」といった意味のことを呟いて、エンジニアさんが英語にして「さっくりと」終わるのです。これでは交渉ごとが成り立つ雰囲気がぶち壊しです。すると本社サイドが「要望はそれほど強くないと理解したよ」と言い放ってきました。で、マネージャーさんは無言。そしてあろうことか、エンジニアさんが「ですね」と返事をしてしまいました。「不要」って意味です。耳を疑った私は「それで良いのですね?」と日本語で聞き直したのですが、これで要望は完全破壊された形です。
いや、私自身も梯子を外されたようなものですから、どうにも出来ません。

電話会議終了で、終了後にマネージャーさんにメールを送ることにしました。概略、こんな感じです。
お疲れ様でした。
通常、こちらから議事録の書き起こし等は行わないのですが、今回は気になる点があり備忘録として共有します。
本件について、私から重要性等は本社に伝えておりましたが、以下のやりとりから実現は困難となりました。
・かねてより、実現には時間等が必要なため困難な状況がある
・貴社からも直接は重要性や必要性について強いアピールがなかった
・本社から実現を諦めて欲しい旨の要請が貴社に宛て行われた
・貴社より要請について同意するとの返答があった
以前より、重要とのキーワードを伺っており、最終アピールの段階と伝えていた電話会議にて、上記のやりとりとなりましたので、貴社でのお考えと私の理解に齟齬があったのかとも考えております。

すると即レスでマネージャー氏のメールが…
こちらこそ、お疲れ様でした。
実現の重要性は以前と変わりありません。
エンジニアからの意見が大筋を覆すというのは、理解に苦しみます。
引き続き、よろしくお願いします。

もし、この返信がリアルな手紙で送られてきたものだったら、きっと破り捨てていたと思いますが…PCのスクリーンを殴るわけにもいかず…。
事実だけを伝えることにしました。
・エンジニアは「通訳」として同席されているため、彼の発言はマネージャー氏の発言と同等として扱われる
・予め通訳者としてのリスクは当方から伝えており、承諾されていた
・要請を再議論するには、正規のレターをSES会社で作成することで可能かも知れないが確約はできない
と…。結果としてマネージャー氏から詫びのようなメールが来て、こちらでレターの原文を起こし、再打ち合わせをこちら主導で行うことで何とか決着にもって行きました。

ここで教訓です。
・議論やネゴは言語に関係なくスキルとして存在する
・英語ができると言うスキルと議論やネゴのスキルは別
・要望は他人に丸投げしない

ホント、この手の話は多いのです。
・会議終了間際の

マーケティングって重要です

SESに限らず、20年ぐらいかな?以上の歴史と伝統に飾られたIT企業の多くで感じるのは「んで、どこに売るの?」と言う話です。
例えば外資ベンダーと協業を行った会社さんでは、プライムベンダーのポジションが殆どありませんでした。狙ったのは(言葉が悪いのですが)、ベンダーと協業する他のIT会社からのコボレ案件だったのです。これは、これで正しい姿ではあるのですが、ITベンダーとしては力の入らない協業モデルなのですね。と言うのも特にアメリカのベンダーが想定する海外進出やマーケティングは基本形が「ダイレクトセールス」です。IBMの製品をIBMが売り、IBが導入するという形です。
基本、ほぼ日本を除く各国おしなべて、このビジネスモデルで商売が成り立ちます。しかし日本では(特に旧来は)「口座を開ける」と言う前提が無ければマトモな提案も出来ず、そのためにIT会社が仲介(代理店)として動く必要がありました。また、欧米の会社が日本語で提案やプロジェクト活動のできる人間を雇うことは大きなハードルになっているため、IT会社のリソースも使いたかったのです。特にスタートアップでは必須とされていました。

と言うことは、先ほど書いたような会社さんの場合、技術者のリソースセンターとはなれても、口座開設に至る上流に入る事が出来ません。当たり前ですが、紹介・提案から動ける他の協業会社とは自然と競争力がなくなってしまいます。そこで彼らが考えたのが、そういった他の協業会社の分もリソースを提供するというモデルです。同様のケースはERPなどでもあるので、まぁ、間違ってはいないでしょう。
しかし、その会社のエンジニアさんと無駄話をしていたときに聞いた話で、ちょっと吹き出してしまいました。「うちの会社、技術力はあるから…あの製品じゃなくて自社で開発した方が良いと思うんですよ」。
実は同じような話をマネージメントレベルでも話していたので、恐らく受け売りなのでしょう。
が、ちょっと待ってくださいね。

「誰が、誰に売んねん!」と言う素朴&絶対的な前提が抜けとるのです。

太古の昔には、ベンダーがベンダーの知見や技術力を活かして製品をつくり、提供するということも出来ました。当時はお客様にとってシステム化すること自体が経験もなく、むしろベンダー主体で考えたアプリケーションにこそ効率化に対する最新・最高のノウハウがあったのでしょう。
ところが、現代において、そのような開発では「無理」なのです。

これは知人のいた会社での出来事ですが、米国企業のジョイントベンチャーに勤務していた彼にとっての競合先は(珍しく)国内製品だったそうです。そこに行っても「○○社の製品と何が違うの?」と聞かれ手しまうのが悩みでした。その一方で彼の製品は既に海外は当然、日本でも大手企業では採用されており、その実績を中核にプロモートに励んだそうです。しかし、やはり国内ベンダーの壁は厚く、またある時期から他の担当者も含めて売上が急速に落ちていきます。
そこで彼以外の営業担当者が米国に「○○社と同じような機能を持たせてくれ!」とねじ込んだのです。彼の会社のSEに聞くと機能の搭載事態はできるんじゃないだろうかと言うアドバイスもあり、強気に且つ必死になって説得したそうです。彼以外の営業が一丸になっていたという状況だと思ってください。なぜ彼だけ動かなかったのか…理由は類似の機能を搭載すると、
・今までも説明しにくかった「差別化ポイント」が更に不鮮明になる
ということに尽きると考えたからです。今まで何で大手企業が導入したのか、何で○○社とは違うアプローチをとっていたのか…売れない中で必死になって米国のエンジニアから拾い上げた情報・知識が彼にとってはバイブルだったのでしょう。そんな彼にとって他の営業社員が企てた製品機能改修は、勉強もせずに安直に売るための改悪に見えたといいます。

(ほぼ)全営業の総意はやがて実を結び、今までの製品のハイグレードバージョンのような形で○○社と同様の使い勝手を持った製品が開発されることになりました。ただ、彼はその機能に期待していませんでしたから、従来のままの製品を彼なりに様々なアプローチで説明のしかたを変えながら地道に売り歩いたそうです。そして約半年、ハイグレードバージョンの登場と同時期に、彼の営業活動も成果を上げ始めます。
他の営業は、新しいブローシャーを手に、今まで廻った会社へ再度、アプローチを仕掛けますが、彼だけは古い製品での契約を纏めにはいりました。が、彼の契約は新製品の登場を知ったお客様にとっては「あれ?そっちの製品も見せてよ」と言う一言で凍結状態に入ります。
また、他の営業は売りに歩くも、それまでの半年をほぼ活動休止していたために中々、成果は見えてきません。意図せず、初めて本格的に新製品を説明する立場におかれた彼ですが、それほど製品の新機能の熟達している訳ではありません。開発依頼の首魁とも言える営業、そしてプリセールス担当を引き連れて説明の場をセットアップすることにしました。彼としては「古いのでも、新しいのでも…あの場では、どちらでも良いから決まってくれよ!と思っていた」そうですが、ただ更なる本心は「出てきたタイミングが悪すぎた」と言うものです。そんな一歩身を引いた彼は、お客様と首魁とのやり取りを聞く立場として参加したそうです。説明⇒デモと流れ、それほど目立った質問も無いままに終わった説明で彼は嫌な予感がしたそうです。そして直後、「彼さん、少し残ってくれる?」と言われ、他の人を見送りました。お客様2名と会議室に戻ると
・あの製品を新たな主力として説明されたことに失望した
・○○社の製品を知らないから、「似ている」ポイントとしてカタログ的な部分にフォーカスしているとしか思えない
・実態はモンキーコピー以下のレベルに見える
・本来持っていた使い易さが、機能として消えている
・寧ろ今まで低評価だった他社製品の方が優れていると思わせてくれた
・旧来製品との並行あるいはアップグレード版なら兎も角…新主力があれでは、契約はできない
と告げられたのです。彼は必死にアップグレード版だが言葉が過ぎたと説明したのですが、運の悪いことに首魁氏は彼の上司、肩書きも「営業本部長」です。彼の説明は言い訳にしか受け取れない重さがあったのですね。
結果として、彼はこのままクロージングに失敗し、他の営業もコミットした時期までに1件の契約も結ぶことは出来ずに終わってしまいます。
その後、その会社がどうなったかは…内緒と言うことでお願いします。ただ、これは作り話では無いことは信じて欲しいですね。
で、ここから学べることは何でしょう。
・甘い市場調査では、ユーザーが求める姿は見えてこない
・ユーザーが求めているのは良いもののコピーではなく、ユーザーにとっての使いやすさや解決策
・解決策が他社のコピーでは、他社よりも高い訴求力を持たない
ということです。

これが「頭でっかち」の開発で失敗するパターンです。そして、もう一つ、この教訓にも含まれていますが、市場の窓ともいえる「お客さま」をもっているかどうかです。先ほどの例は、お客様との会話も無く「これだー!」とコピー元を見つけて製品のコンセプトを作ってしまいました。以前にも書いた「要求」の中身がないのですね。単機能製品なら良いのですが、幾つかの機能…例えば作成⇒参照⇒編集⇒結果印刷という、かなり単純な機能の並びであっても、例えば「誰が?」「いつ?」「どのように」などの要素が見極められないと使い勝手を論じるレベルには到達しません。
これがシステムになれば、なお更なのです。そのため、単機能の実装でも周囲に及ぼす影響が理解できなければ、実装には至りません。もう少し続けます。
この様に実装に至らない事を予期して、機能改修を依頼しないことも間違えです。私自身のある製品の機能改修を依頼した経験でいえば、
・改修をしないことによる「不便」や「不具合」のリスト化
・改修対象したときの機能仕様や望む性能
・市場としての受け止め方
・その時点での案件契約で影響する売上の変化
は纏めます。
そこからが開発やマーケティングとの議論になります。
・要求した仕様が、製品の他の機能や性能に影響を与えるのか
・実装は技術的に可能なのか
・可能な場合、実装優先度を上げられる状況にあるのか
と言う事を半ば説得、時には脅迫(?)で上申しなくてはなりません。

余談ですが、外資ITに「この機能を改善して欲しい」というと「はい、改善要望としてエスカレーションします。ただし、実現についてはお約束できません」と言われることがありますが、こんな社内交渉はしていないと思ってください。単に「エスカレーションボックス」と言う目安箱に投げ込んだだけですから。

さて、では、ここまでと同等以上に頑張って新製品や新機能を盛り込んだとしましょう。で、はたと気づく事が多いようです。「どこに売りに行くの?どうやって資金回収するの?」という素朴な、そしてとても大切なことに。

だから書いたんですよ、「市場の窓」をもっておけと。
市場の窓のようなお客様がいると、特に複数持っていると、製品のあるべき姿と共に、あってはならない姿が見えてきます。これが言って見れば製品の「セールスポイント」になるのです。よくBuzzワードを使って説明する人がいますが、Buzzっている言葉は、大抵、競合製品でも持っているのです。また、市場の窓が「版権」を持ってしまっては、新製品ではなく単なる「受託開発」に終わってしまいます。この「握り」ができなければ、諦めるべきでしょう。言い方を変えれば、ここにこそチャレンジの第一歩があるのですね。
その為に営業や経営として感覚を養うべきことは「マーケティング」です。何が求められているのかを聞き出して提案する。そしてパッケージやSaaSとしての値ごろ感を把握する必要があります。ビジネスモデルも作らなければならないかも知れません。当然、開発に必要な予算などエンジニアからも情報を集約しなければなりませんね。こういった事を纏めることで、要求されている事を100としたときに60で勝負ができるのか、あるいは120積み上げる必要があるのかを決断する必要があるはずです。この舵取りこそSES会社の経営には出来ないことだと思っています。私流の、プリセールス観点のマーケティングのあり方(の一つ)だと思うのです。

嫌いなタイプ

色々と書いてきましたが、少し箸休めと言うか…。余談で書き始めます。

私が嫌いな人。特定の人を指すわけではなく、一般論として嫌いなタイプがいます。きっと皆さんにもいると思うのですが(笑)。
・嘘つき
・偉そう
この2パターンなのです。「ふーん、普通ジャン」と言われちゃうでしょうね(笑)。
ただ、少し体験を混ぜながら続けていきますね。

まず「嘘つき」について。
ビジネスをやっていれば、様々な場面で梯子を外される場面に出会いますね。「あの人が支援してくれると信じて提案したのに」とか「あそこでコミットしてくれたのに」とか。
当然、騙されたと思っている側の勘違いもあるのでしょうが、少なからず何らかの言質に基づいて動いたと言う事でしょう。単純な嘘ではなく、こういった事をやるのも、やられるのも大嫌いなのです。逆に、こういった事がまるで社風のようになっている会社も残念ながらありますね。あ
例えば、ある中堅大手、あるいは準大手クラスのIT企業の提携先リストを拝見したときに、知り合いの勤め先のロゴが打たれていたのです。「あ、○○社の取り扱いとは珍しいですね」と聞いたところ、あまりハッキリとした返事がありません。そこで知り合いに連絡を取り「△社とアライアンス組んだんだね。君の会社、提携にはハードル高いのに凄いね!」と言ったところ…意外なほど沈んだ声で「あ、そんなズルいことするんだ…」と返事をされたのです。
まだ日本ではスタートアップに近い知り合いの会社ですが、本国ではそれなりの成果を上げていました。当然、日本風の「アライアンス」なんていう概念はなく、パートナーシップ締結のため、相手方から相当な額を支払わせ、またエンジニアの育成にもコミットさせなければなりません。これは「日本ではSIerがいないとビジネス展開ができない」という日本法人からの強い意向が基に、一種の妥協点として出来上がった規定なのだそうです。つまり日本法人としては、アライアンス先の確保を至上命題にして動いていたとも言える訳です。
そんな中、知り合いもダイレクト案件をこなしつつ、アライアンス締結に向け東奔西走している中で動いたのが△社でした。△社では既に競合先との提携があったので、最初は警戒をしたそうです。が、△社の窓口は「提携先は動きが悪い」「実際に導入してみると、導入も大変な上にお客様の評価も低い」などなど誹謗中傷のような言い方で、提携関係が破綻しかけ、更にその為に組んだチームリソースを転用する必要性を強く語っていたそうです。そうなると知り合いとしても看過は出来ませんし、日本法人も積極的に提携に向けて動き出します。こういった前向きな事があれば、プレスリリースを出して知名度を上げられるのですから、相当必死に動いたことは容易に想像できます。
ところが、そろそろ纏まるかな?と思ったところで、先方△社の担当者から「状況が変わりつつあり、一旦、白紙に戻して欲しい」という連絡が来て、そこから音信普通状態になったというのです。ある種、ここまでは「よくある話」ではあるのですが、まだ続きがありました。
△社の場合、知り合いの会社が抱えていた分野では(私も見たのですが)相当数の会社と取引があるような売り口上をしているのです。が、実態は罵詈雑言を並べ立てたベンダーしか扱っていません。これは知り合いが調べ、別の競合会社でも同じようなことをやられたと聞いたそうなのです。
まるで詐欺のような話ですが、一応「穏便に大人の対応をしてくよ」と言う彼の声から察するに、本社と掛け合いながら法的処置には入れそうも無いという諦めを感じ取りました。

さて、次の「偉そう」です。
私も「上から目線」とか「態度がでかい」と言われ続けていますが、少し違う次元の「偉そう」です。
これはまだ若かった頃、外注先のマネージャーさんとタクシーで移動していたときの事です。彼は普段から若造の私などにも丁寧に話をしてくれ、また自分の部下とも柔和に接する「良い人」だったのですが、このタクシー同乗を期に全く評価を変えてしまいました。
私などは親から「職業に貴賎なし」とか古風なことを言われていたこともあるのでしょう、外食先では「ご馳走様」、タクシーの降車時には「お世話様でした。お気をつけて」を言わないと何か気持ちが悪いのです。で、そのマネージャーさんですが、タクシーに乗るや「○○!」と大声で行き先を告げます。(あれ?○○までお願いします!とは言わないんだ)とか思いながら、社内で会話をしていると、更に「あ、そこ右!」「次の信号で」と全く敬語も使わなかったのです。明らかに見下したような言いっぷりに呆れてしまったのです。が、まぁ一種の個性だと思い、そのまま包皮していたのです。ただ、以前と違い、私から積極的に食事に誘うなどはなくなりましたが(笑)。しかし、暫くすると「あれが彼の本性だったのね」と理解できたのです。彼の配下で4人のSEさんがプロジェクトにいてくれたのですが、3ヶ月連続で一人ずつ退任していったのです。最初は異動かなにかかと考えたのですが、二人目の退任者が挨拶にきたときに「で、次のプロジェクトは?」と鎌を掛けるような質問をしてみました。すると「いや、辞めるんですよ。会社」と意外な返事が…。「へっ?次の仕事は?」と続けざまに聞くと「うーん、まだ探してるんですよね」と…。根掘り葉掘りは聞けなかったのですが、上司であるマネージャー氏が陰に廻ったときの言動に耐えられなかったこと、また前月の退任者も退職だったことを聞いてしまいました。こうなると、一応は先輩や上司にも報告しないと…。と。ただ会社として何かの対応は…。といっても、喫緊の課題は「後任の手当て」です。これを厳に依頼して終わりにしたのです。が、後任が定まらないまま、次の月には更に一人、退職されてしまい、かのマネージャー氏の会社はマネージャー氏+1名の体制、当然、辞められた方の作業負荷は別会社XXXから一名の補充は出来たものの、プロパー社員が担っている状況に追い込まれました。で、そうなると私の上司もさすがに堪えられなくなり「お願いしていた要員の手当てが間に合わないようなので、代わりはXXX社さんにお願いしますよ」と、マネージャー氏もろとも、サヨウナラとなりました。
普段、どんなに腰を低く見せていても、謂れの無い人に当たるような真似をすればお里が知れてしまいますね。

いや、この業界、こんな人、多いなぁ〜(笑)

外資のベンダーにいた当時でも、また国内のIT会社にいたときも、基本的にプライム、事業会社との直接契約となる立場で提案やプロジェクトに参加していました。
例外的に、事業会社のIT部門が分社し、その会社との契約となったとしても、基本形は「お客様=事業会社」となる訳です。
この位置づけの会社と下請SES会社とでは、色々なところが違っていますね。

・お客様とは?
 一般に「お客様」と言えば、事業会社を指している訳ですが、下請SES会社の場合、商流で上側全てを「お客様」とする場面を見ています。そのため、
 Aさん「お客さんが○○をして欲しいって」
 Bさん「了解。でも△△部では違うこと言ってたよ」
 Aさん「いや、■■社からの要望だよ」
 Bさん「あれ?■■と△△部って会話してる?」
とややこしいやり取りが発生します。
そのため、事業会社側を「銀行さん」とか「食品さん」、あるいは元請を社名でと意図的に区別する必要が出てきます。
つまり「顧客第一主義」であるとか「顧客満足度」と言う言葉の対象が曖昧になっていると言う図式が、簡単に成立しているのです。

ある下請SESを中心にしている会社についてですが、お客様満足度調査を実施した話を聞き、笑ってしまった事があります。
一応、毎年、顧客満足度調査を行っているそうなのですが、毎年、調査項目が変わっていたそうです。取引開始から3年目ぐらいを経過した事業会社さん、つまりSES会社にとっては珍しいプライム契約先から「去年も一昨年も違う項目に答えを書いているんだけど、何が改善されたのか全くわからないね。単なるアンケートなら時間の無駄だよ」と突き返されたと言うのです。
SES会社としては不満点を拾い上げようという意図だったそうなのですが、「定点観測」をすると言う定量的な把握の意図は無かったのでしょう。また、調査担当者が現場にフィードバックをする度に、項目の過不足を指摘されるために「改善」と称して本来の目的を見失っていたのでしょう。
ただ、調査担当者の立場になれば会社の主務であるSESでのビジネスで顧客満足度を上げようと思えば「(単価が)安い、(好きなときに要員調達してくれて)重宝、(ある程度)高度なスキルがある」と言う三点しか念頭になかったのではないかと思うのです。
では、プライムの立場で同じ三点セットが顧客満足に繋がるのでしょうか?私の経験では「全く違う」事になります。
・業種、業務、あるいは対象となる技術への高い専門性
・専門性に基づく顧客課題の理解
・顧客課題に対する提案能力
だと思うのです。

従来、ゼネコン的なプライムベンダーさんの多くは、お客様との長い付き合いの中で
・タイミング:サポート期限などによる刷新
・外部要因:法令改正などによる調査、改修
・新技術:新製品や新提携先などのプロモーション
など一種、ルーティーン化された中から折々のメニューを出していくことで、お客様IT部門との会話を端緒に提案を出していく事ができました。
ところが(以前にも書いたことですが)、IT部門がお客様部門の中で主導的立場を取れなくなっている状況があり、このルーティーンが崩れ始めたと思うのです。まだまだ硬いとは思いますが、幾つかのソリューション分野を見ている限り、主導権・決定権は業務部門に移っています。
この変化は、本来、中小のIT企業には等しくチャンスとなっても良いのですが、下請SESは全くの蚊帳の外と言っても過言ではないでしょう。「チャネルがないから仕方ない」と言う話も出ますが、実際にはチャネルとなる業務部門にアクセスする『術』が無いのです。
ある小さなIT企業を見ていると、サイト上では「コンサルテーション」が主務のように見えるのですが、実態は米系SaaSの代理店が主業務になっています。元来、この会社が持っていたチャネルでは、中小規模の事業会社しかリーチできませんでした。しかし、代理店になることによって、自社への問い合わせ以外に、SaaSベンダーへの国内問い合わせも引合として使えるようになったのです。この事でバラ色とは言えないまでも(正直、私からは信じられないくらい)某巨大事業会社へのSaaS導入を展開しているのです。

少々、きつい言い方をすれば、頭の固いお年寄りの営業経験者さんには理解できないでしょうが、あなたたちが恐れ奉った「ブランド」は、過日のような輝きで全てに優先することはなくなっているのです。その輝きにトラウマを植えつけられ、あるいは培われた成功体験は若い企業家やエンジニアにとって毒にこそなれ、役に立つものではありません。
寧ろ、若い人たちに負けないよう勉強をしてください。

社長。決断です!

外資の社員だったり、あるいは海外製品の代理店をやっていると、どうしても国外に住む外人との接点ができてきます。その中で、お互いの常識の違いに気づく事が少なくありません。
ただ、「日本 vs. 外国」と言う比較は、とても使いやすいのですが、的外れになることも少なくありませんね。聞いていると「それ、アメリカだったら同意だけど、シンガポールでは違うよね」とか…(まぁ、いつものテキトーな例です。スイマセン)。
ただ、一般的に思うこととして「職責の重さ」「上意下達」、そして「階級」の違いです。

以前、ヨーロッパの会社に勤めていた頃、本社への出張で本社まで営業と二人で飛んでいきました。小さな会社で、エアはこちらで手配したのですが、ホテルは本社側が提携でもしていたのでしょうか…手配をしてくれました。そしてチェックイン。ここで営業と私はフロアが違うということで分かれたのですが…。奴が私の部屋へ電源アダプターを借りにきて「あら〜っ」と声を上げました。部屋の広さが全然違うというのです。私のは、ワンルームのビジネスホテルみたいな感じですが、彼の部屋は2部屋あると…。ここで気づきました。彼には「マネージャー」のタイトルがついていたのですが、私は「スペシャリスト」だったんですね。「あー、これが階級社会か」と納得せざるを得ませんでした。

さて、そんな恨み言のような事から書き始めましたが、少なくとも大抵の海外の会社では、表層的にはとてもフラットな組織構成に見えるかと思います。上司や社長をファーストネームで呼ぶ組織も少なくありません。しかし、実態としては階級、職位がモノを言います。日本であれば実質はマネージャークラスに権限が与えられているような事項でも、一々、法務のチェック、社長レビューを得ないと何も進められないこともあるのです。それだけ社長(CEO/COO、あるいは担当EVPなど)の権限や責任が強固に定義されているのです。
「うちの会社だって上司には逆らえないよ」と言われるかも知れませんが、海外の会社で上司や社長の愚痴を聞いたことは殆ど無いんですね。

さて、そんな責任・権限が当たり前になっていると、製品やサービスが訴求すべきは対象は経営層になるのです。
もしかしたら国内でも実践している会社があるかも知れませんが、外資に入るとセールスライフサイクルのガイダンスを受ける事が少なくありません。内容は引合から契約までの役割分担が主なのですが、その期間を段階にして示しているのです。例えば、担当者に会った⇒製品のプレゼンを行った⇒デモを行った⇒経営層に対してプレゼンを行った
とかですね。
で、この段階に従って「成約確率」が割り振られています。
「んな無茶な。取締役には何度も会ったけど、決まらないよ」と言われる方も多いと思いますが、とにかく「成約確率=セールス段階」なのです。確かに日本では例え社長がポジティブに反応しても、中間管理職や現場にダメだしされて失注するケースが少なくありませんが…。
逆に社長などに会えずに失注するとどうなるか判りますか?酷い場合にはパワハラと言う表現が生易しいくらいの暴言をカントリーマネージャーに食らうこともあります。あるいは海外の統括マネージャーから「無能」と言われることも。彼らから見れば正規のプロセスを実践していなかったから失注したのだろうと思っているのでしょう。あるいは、実践する能力すらないと。

なぜ海外では社長の決断が効いてくるのでしょう?
IT業界しか知らないので、その視点で書けば…「ITの改善は自社収益の改善、つまり社長の責任に直結する」と言うことだと思うのです。
以前、欧州系の銀行での事例を聞いて、基本的な環境や諸条件は日本も同じだろうと思い込んでいた事があります。そこで、その事例を説明してくれた人間に「これはどこら辺が先端的な試みなのか?適用前と適用後の違いを少し掘り下げて説明してくれないか?」と頼んだところ、かなり深く掘り下げた超シンプルな回答がありました。「以前の環境でも日本の銀行にはできていなかった。もし説明してくれた内容を実現しようとすれば、かなり長い時間が必要」といわれたのです。
そこまでの情報を仕入れて、ある金融機関でホボ受け売りのような説明をしたところ、余り反応がありません。冷や汗が流れ落ちそうなところで、先方の最上位参加者(マネージャー)が「この説明で、うちが参考にすべきところは?」と言う質問が飛んできました。冷や汗が止まって引いていく感じがあったのです。
聞きかじった内容を披瀝する機会が来たのです。すると「あーーー。確かに、欧州地域だけじゃなく国内もできてないな」といった反応があったのです。関係者でもパッとは閃かない程度の違いなのですが、それが人材の確保や流出、収益機会の損失などにも関係していたのです。
問題は、ここからです。このマネージャー氏、程なく退職されてしまうのですが、この銀行に限らず小さなITでのケチりが収益など幅広な影響を与えていることに経営は、どれほど興味があるのでしょうか?
時に「ITは専門家じゃないと判らない」と仰る方も多いのです。ただ、この言葉、日本だけで許されていると思った方が良いでしょう。

従来から銀行におけるITは生命線と言われていました。それでも彼我の差は小さくありません。企業の規模に関係なく、適所で活用可能なITソリューションを適用していなければ生き残りも厳しい状態だと思っています。
また、このblogで書いてきたように、出入りしているIT企業が適切な提案を出せる状況には無いのですね。いや、提案があってもリーズナブル(単に安いのではなく、論理的な)価格で実装ができているとは思えないのです。
本当に為すべきことはトップダウンで「不便」をITの改善に反映し続けること、そして全社的に便利なITを探し続けることだと思うのです。
「欲しがりません勝つまでは」の清貧を美徳とするのも良いのです。が、それで生き残れる人材や知見がないのであれば、それを補いえるのがITの力だと思うのです。「不便の改善」⇒「収益への影響」…社長さん、試算してみては如何でしょうか?