忙しすぎるSE

結構、長い間、外資系のベンダーに勤めていました。そして国内の会社で働いていても、結構、外資ベンダーとのお付き合いが発生していました。そこで比べると、日本のSEは働きすぎです。

「お前、働き者を馬鹿にするのか?」と言われそうですが、馬鹿にしている部分があります。
以前にも書きましたが、日本のIT会社の場合、多くはプリセールス要員がいません。そのため、提案が「ビビリ」になっているのです。以前も書いたと思いますが、私がプリセールスとして誇れるところは(胸は張りません)、お客様の要求の引き出しにあります。引き出したら出来る出来ないは兎も角、出来るように考えます。が、ビビリの提案になると要求を抑え込んでしまうのです。一つの理由は、日本のIT会社の場合、どうしても提案活動の期間が限られます。RFPが来て初めてコンタクトが取れるような事も珍しくないようです。こうなると、活動期間は数週間から1ヶ月。一気呵成に見積作成にまで持っていかなくてはなりません。RFPから読み取れないことは想定で書き込みます。そんな中で要求の引き出しなんてやっていては、いつまでたってもプロジェクトのキックオフどころか見積が作れません。
私のような「はしくれエンジニア」から見ていると、優秀なSEさんほどビビリになる傾向が強いように思うのです。
ビビリの提案になれた人ほど、定型化された作業には強いんですね。私が100人いても出来ないことをスラスラと実現してしまいます。言葉も教科書に載っていそうな専門用語が出てきます。格好いいですね。ところが、こういった方ほどRFPから競合を勝ち抜いたプロジェクトでコケル気がします。
理由は簡単です。RFP以後、一気呵成に定型化した見積で契約していますから、お客様の中の「想い」が充分に汲み取れていません。一方でプロジェクト期間は、とても長いのです。ですから「秘められた要件」=「想い」がプロジェクトの中で出てくるのです。ところが精緻に作られた見積・スケジュールに、そんなものを汲み取る時間は全く有りません。そうなるとお客様は「あいつら融通が利かない」「選定が間違っていた」と散々な評価が出まくります。それに対して美しい提案と精緻な見積で武装したビビリには抗弁する材料がないのですね。これが「提案が固定化する」最大の危険です。

前例踏襲で済むくらい「カスタマイズはしません」「こちらがやることはここ迄です」と言い切れる商材、製品なら良いのですが、大抵は逃げ場がなくなります。で想いを実現するにもオーバーワーク、拒絶するにも文書など書かされてオーバーワーク。これが働きすぎになる第一弾ですね。
次がプロジェクト管理です。プロジェクト管理のためのドキュメントが多すぎると思うのです。ガントチャートだけをとっても、社内用とお客さま用の2つを作る。少しでも遅延があれば社内の説明を資料を作って行い、またお客様にも別途作成の上、説明。いやいや、忘れていました。提案でも見られますね。提案書自体はチャチャっと作っているのに、その裏にあるソフトウェアやハード、サービスなど外部からの仕入見積、それを社内の原価管理に落とし込んで、更に利益率やリスクレートを掛け合わせて…で、検算をして見ると辻褄が合わない。で、もう一度計算してみて…。とExcelとの格闘が行われます。中間、見積の変更などが入るといけないので、バージョンをガンガン上げながら共同作業をしていると、今度は先祖がえりしてしまって、再計算。ギャグのような状況が簡単に起こるのです。
確かに、こんなことをやっていれば、お客様と会話する勇気なんて持てない訳です。ビビッて当たり前、私だってビビリます。こうなると「社会が悪い!」とか言いたくもなりますが…。仕事のやり方を変えないとね。で、これが働きすぎになる第2弾です。

そして、もう一つ。これがプログラマー信仰に根ざしているところで…。本来、技術の発達と共にGUIベースで開発する事が一般化してくるだろうと思っていました。そして、そう提唱もされていました。が、結果として、未だに「.netで開発が」とかって感じなのです。前にも書きましたが、様々な開発ツール(有償版)を使うと、製品価格はアドオンになりますが、一方で開発の人件費が下がるので全体の見積費用はトントンになることが多いのです。そして、手組みでプログラムを組むよりも一般的にバグ発生率が低くなります。バグは一定数発生するのがプログラム開発の要諦ですが、一方で一定数を越えてしまうとスケジュール遅延になります。更にテスト仕様などに漏れがあれば、そのまま本番稼働中にトラブルが起きてしまうのですね。それだけ、プロジェクトの潜在的なリスクが低くなるのです。ところが、特に日本では、こういったツールの導入が進んでいないように思います。その理由がIT会社のせいだとしたら、怒られますか?(笑)。
その責任論は兎も角、IT会社がブレーキをかけていると思う理由があります。それは「開発生産性」です。
開発生産性が良くなれば、SEさんの稼動時間は短くなります。が、IT会社の生命線はSEの稼動時間なのです。当たり前の事ですが過剰な残業は誰も望んでいません。特にIT会社自身は望んでいません。が、開発生産性の良いツールを使ったプロジェクトで見積を行えば、当然、見積に出てくる数字は小さくなります。すなわち!売上予測が小さくなるのです。過去には某製品を使った開発を高らかに宣言したプレスリリースをしたがために「○○を使うんだったら、もっと安く出来るはず」とお客様に鴨のようにされてしまったIT会社もあったそうです。
「ん?でも売上は変わらないって言ってたジャン」と言われるのでしたら…。その通りです。ところが、全体の利益率は小さくなります。SEさんが稼ぎ出す100万円と外部から仕入れた製品を販売する利益率が違うのです。当たり前ですがSEさんの方が高い利益率を設定されているのですね(あ、ピンはね?)。
それに、保守なども考えればシステムが何かやるよりも人手が掛かる方が、将来的な売上にも関わるのです。効率化が中々進まない、これが第三弾です。

 

忙しいことが美しく扱われるのは、勘違いだと思います。その人、あるいは組織・会社として仕事の進め方がおかしいのです。忙しすぎて勉強ができないというのも、勉強しすぎて仕事ができないのと同じくらいに変な話だと思うのですよ。