PMとプリセールス

PMとプリセールスは国内のITで比較的「軽く見られる」カテゴリーだと思っています。
「PMとは?」と考えると、本来はプロジェクトでお客様との最大の接触点です。接触にはコミュニケーションとネゴシエーションの二つがあり、これを裏で支えるため要員の管理、スケジュール管理やコスト管理の他、リスク管理など多岐にわたる管理と、その為の経験や知識が求められます。言ってみれば、期間限定の(かなりシビアな意味で)経営を行わなくてはなりません。

しかし、実態で言えば例えば
スケジュール遅延が起きている←ネゴシエーションが機能しない←プロジェクトの実態を把握していない
と言う図式が成立している事が少なくないよう思うのですね。
プロジェクト内でPMは厳然たるトップですから、それでもリーダを初めとしたメンバーは付き従う必要がありますが、概ね破綻している状況といって過言ではないでしょう。
では、なぜ、こんな事が起きるのでしょうか?
まず、考えるべき点としてPMの職責が曖昧になっている事が上げられると思います。あるプロジェクトを請け負ったとき、その組織のマネージメント階層がそのままPMとなっていることが少なく有りません。ところがマネージャーが提案段階で仕切っていたとは限らず、またPMとしての経験や知見を持ち合わせているとは限らないのですね。つまり組織マネージャーとプロジェクトマネージャーが同一視されてしまっていることに問題の起因があると思っています。ただ、別の問題もあります。

もう一つは特に中小規模のプロジェクトの場合、PMをテキトーに選んでいると思うケースがあるのですね。どういう事かと言えば、PMがPMとして自己認識をしないまま組織のマネージャーから委託されて「言われるがまま」に着任してしまうケースです。この場合、お客様との接点も含めて機能しない人が少なからずいるのです。SESを主体としたIT会社のマネージャーさんと会話したときの記憶ですが「PMって何のためにいるんですかね?まぁガントチャートとか作る人はいりますけどね」と…。(いや、それPMOにやらせなさい!)特にシニア階層になるまでお客様とメインで折衝する必要がなかったのですから、言われるがままに動く事が正義になっているかと思いますが…。
逆に同様にSES主体の会社で人事、特にキャリアマネージメントを中心に考えてる担当者の方からは「うち、シニアになるほどSE志向が強いんですよ。PMとかコンサルタントって…」と嘆かれていたのです。で、少し突っ込んで聞いてみたところ、会社認定のPMになるためには100人月程度のプロジェクトでのリーダー経験が5回以上、コンサルタントは同規模のプロジェクトをマネージした経験が2回以上と言うのです。察するに100人月のプロジェクトマネージメントの機会は、その会社では殆ど無いはずです。が、数名の認定コンサルタントがいると言う『矛盾』を尋ねたら、「基準はあるのですが、結局は上司の方や担当の役員からの推薦で決まるんですよ」と…。「基準、意味ねぇじゃん!」と言う叫びは胸の中にしまっておきました。
が、結局、PMもコンサルタントも言わば評価の延長線上にしかなく、PMとしてのスペシャリティや役割について明確なものはないと言うことです。であれば、普通に過ごしてマネージャー→部長と無難な昇進を狙うか、昇進などというストレスもなく言われたことを素直に(悩みながら)作っている方がローリスクなサラリーマンライフをエンジョイできるでしょう。
つまり、会社の経営層も社員自身も「PM」と言う立場に現実感もなければ憧れもないのですね。

では、プリセールスです。こちらは、もっと悲惨だと思っています。
先に米国ベンダーでの経験で考えて見ます。
新製品や新機能の提供が発表される→特性や改善点を把握⇒説明資料の作成⇒既存の顧客やプロスペクトでの適合性をシミュレーション(妄想)⇒営業への説明や提案→営業から説明先へコンタクト⇒説明実施⇒反応などから適正や有為性の見直し⇒説明資料の修正
と言うサイクルを形成します。
言わば製品の現実的な市場投入にプリセールスが指導的な立場をとらなければならないのですね。
ところが、こんな事は日本のSEさんにはあまり求められません。
逆に言えば「無駄」と思う部分が多いのではないでしょうか?例えば、外部の製品やサービスを提案憎みこむ場合、その部分は製品のベンダーに任せてしまう。場合によってはプレゼンや説明会でも製品ベンダーが語る場面を作るそうですが…。お客様がIT会社に相談や提案を求める場面で自社・他社の敷居のないソリューションを望んでいるはずです。明らかに有名なSAPなどの製品を組み込んでいても、その周辺を含めた知見がIT会社にあるかどうかがキーポイントになると考えています。その前提で言えば、特に初めてソリューションに組み込む場合、ベンダーのプリセールスと同様、あるいは別の視点から特性や適合性を調べなければならないはずです。が…。お忙しい中では無理難題なのでしょうか?
あ、ただダメだしについては時間を使われるケースが多いかも知れません。
これもリスクを嫌う一環なのでしょうが、外資ベンダーに勤めていた当時、時々ですが、焦点の定まらない質問の羅列に悩まされた事があります。時に同行した営業が「それが判ると何か前に進むんですか?」と言うレベルといえば良いでしょうか?そうですね。例えば「その製品の内部でtomcatを使うようだけど、他に使っている外部製品を全て提示してください」とかですね。こうなると…まぁ海外の開発部門なんかにエスカレーションするんですね。すると「それリエンジニアリグじゃね?」と判断されて、良くて「内部機密に抵触するので回答は差し控えます」、通常ならエスカレーションもスルーされて終了です(こちらで「内部機密に…」を書き起こすことになるんです)。

正直、この手合いで商談が先に進んだ経験は自分だけではなく、同僚たちの案件を見ていても「皆無」でしたね。

ただ逆にお客様やIT会社から見るとベンダーのプリセールスは「ただで使える」と言う利点があります。そう評価が低いと言う点や、日本のIT会社がプリセールスの育成に不熱心な理由は、もしかしたらここにあるのかも知れません。
私などは若いころから修羅場や針の筵のような状況を過ごしていると、お客様とのネゴはキーポイントですし、楽しくもあったりします(時に「ストレス不感症」と言われることもあります)。が、そんな経験がなく闇雲に知見もない製品のセールス活動の手伝いに借り出されたとしたら、相当なストレスを感じるでしょう。それは当事者だけではなく、組織としても共有しやすい感覚だと思います。その裏返しの感情も手伝って「プリセールス活動はコストばかりかかる無駄」としてしまうのかもしれません。

PMもプリセールスも、ある種の人からは「生産に直接関与していない」と思われる、いや、実際に言われたこともあります。が、生産が資材も機材もなしにできると思っているとしか考えられない「非現実」ではないでしょうか?