IT市場の変化

日本ではIT分野で特殊性を抱えていると思っています。が、実はグローバルレベルの変化に着実に追従している部分があります。とはいえ、追従しているのはお客様企業であってIT企業が追従しているとは思えない現実があります。

ソリューションの変化
何度か開発基盤等について触れましたが、この分野やSOA・ESBなどのミドルウェアの分野が華やかだった時期に、ベンダーが訴えたのは「全体効率化」でした。エンタープライズソリューションと言うように企業の全体をコントロールするようにシステム環境を整理していく事が重要だと考えたのですね。特に、この技術が効果を上げたのがシステム連携です。
システム連携は連携の方式やタイミング、目的によって同じシステム同士の接続であっても複数の要素が存在するために非常に複雑な状況になっています。これが「スパゲッティ化」と言う状況です。

これを疎結合化として、できるだけ標準の方式で接続ポイントを簡略化しようとしたのがESBやSOAの考え方の基本でした。また、疎結合により例えば、一方のDB構成が変更されても、直接影響を受けないようサービスとして連携しようとしていました。
この考え方は、今でも活きています。が、過去形で書いている理由があります。それは、従来、実現のためESBツールなどと呼ばれた製品で実現しようとしていたのですが、Webサービスの一般化、普及やAPIの提供によるパッケージやSaaS疎結合化を可能とした接続方式の提供で、Javaでスクラッチの開発を行っても比較的簡単に実装できるようになったからです。

でも、これだけでは「全体最適はできないじゃないか」と言う問いかけには「その通り!」といわざるを得ません。いや、接続が簡素化=疎結合化されることで一定の全体最適が行われたと考えてよいのだとは思います。が、本来であれば、ここから接続内容の管理(利用頻度や方式管理)に発展させようとしたベンダーも多かったのですが、現実にはそれ以前の段階でお客様(市場)が満足されてしまったと考える状況ですね。
で満足したお客様が考えたのは「部分最適化」と言うべき改善です。ここで言う部分とは、単一あるいは比較的小規模の業務集合に対する課題解決として書いています。例えば、セキュリティというと企業全体の試みになりますが、ログインだけを完全にするためワンタイムパスワードを構成してみたり、工程の管理を行うためにプロジェクト管理ツールを導入するなど、業務や課題に特化した解決策の導入が増えたと思うのです。

特に、この流れを加速させている要素が「SaaS」です。内容にもよりますが、SaaSなら小難しい設定も構築もなく、すぐに使えるものが多く有ります。ユーザー登録が終わったらすぐに書き始められるフリーのBlogツールなどは典型的なSaaSでしょう。そして、各業務や部門にありそうな様々な課題に合わせて、痒いところに手が届くようなSaaSが沢山出てきているのですね。

部分最適が歓迎される訳
部分最適全体最適は神学論争のような関係がありました。部分最適は、業務に特化した解決策だから費用対効果も可視化しやすいと主張し、全体最適部分最適の積み重ねで複雑化したシステム環境を改善しなければ適時のシステム更新すらできな現実を打破する必要があると主張したのです。で、現在は部分最適に大きくシフトしています。それは接続の標準化・疎結合化の普及もありますし、もう一方で、やはり経営層や財務の視点で部分最適による効果の可視化にこそ重点が置かれやすい現実があると思います。

セールス対象の変化
このように部分最適が進んでくると、従来の「商流」にも変化が起きています。例えばシステム連携も必要ないSaaSなどは、業務部門が勝手に契約することも可能です。まぁ現実にはセキュリティチェックや法務チェックなど一般的な調達に必要な手間が掛かりますが、特にIT部門を経由する必要も手を煩わせる必要もありません。
また自前のシステムと連携するようなSaaSでも、IT部門の選定よりも業務部門が効率化や課題への対策となり得るかを判断することが優先されます。となると、売り込む先は業務部門です。が、IT企業の多くは、お客様企業のIT部門とはコネクションはあっても、中々業務部門にはコンタクトができません。ERPを扱っているところでも、本当に人事・在庫・経理などの個別業務部門とコンタクトを取れていれば未だしも、業務向けSaaSを最適な人に提案することは難しいようです。
そしてIT会社には、もう一つの問題があります。
それはSaaSが自前の製品なら、利用料の殆ど全てが自社の収入にできるのですが、例えばSFDCやNET SUITEような他社製品の販売代理店としてアクションする場合、収益率は決して高くありません。営業の評価として考えると恐らく、ERPなら年間で一件でも成約すれば充分に3-10人のチームが構成できるのに、SaaSの場合、年間で10件以上とらないとシステム連携やコンサルテーションなどの付帯的なサービスを構成することが難しいのではないかと思います。
となるとSaaSを初めとした部分最適のソリューションは「薄利多売」と言うよりも「小利多売」(小さな利益を多量に販売する)が求められてくるのですね。そして数をこなすように売りに行く先は、誰も知らない事業部門だったりします。とてつもないチャレンジだと思います。

CIOからCMOへ、そして現場へ
以前ほどではないとは思いますが、米国では今でも激しい買収活動が行われています。ただ以前ならIBMOracleと言うIT屋なら誰でも知っている会社が買い手になっていましたが、最近は「知る人ぞ知る」ような会社が特殊な技術を持つ会社を盛んに買収している印象が強いのです。そういった買収のニュースを見ていたときに「CIOからCMOへ」的な表題を見つけました。上で書いたように、従来ならCIO=情報システム担当取締役とのコンタクトを重視していたが、アメリカではCMOマーケティング担当取締役をターゲットする方向へとシフトしているようです。
この動きは、恐らく既に日本でも起きています。最近、ウォッチしているとあるソリューション業界では、アメリカでもヨーロッパでも「非IT」だった会社や「ニッチなIT会社」が主役になってきているのです。その分野ではIBMOracleも、現在の巨人であるAmazonGoogleも一般市場では活躍できていません。恐らく100人にきいて1人か2人「お、知ってる」と言う感じでは無いでしょうか?
そして、その新たな主役が元々持っていたソリューションが優れていた訳ではなく、彼らが持っていた「知見」に見合う新しい技術ベンダーの買収によって強力な存在になっているようです。市場の規模で言えば、基幹システムやプラットフォームといったソリューションには到底敵うレベルにはなりませんが、確実に存在感を見せつけています。日本にも、同様のサービスを提供している小さなベンダーがあるのですが…とても頑張っているのですが…今のレベルでは市場の大きなパイは外資に、そして残ったところが国内ベンダーにというすみわけができるのでは無いかと見ています。
このようなシフト、実際に聞いてみるとIT部門の関与は製品選定が終わった後、あるいは、ほぼ具体的な選定に入った時点と言う状況のようです。こうなると、従来型のIT会社は、もしIT部門からRFPが出たとしても確実に後手になりますし、勝ち目のあるソリューションは提示できないでしょう。