会社の強み

いわゆる失われた20年と言う期間、リスクとコスト投入を避けることで伸びた企業が多かったのではないでしょうか?
その結果、正直、聞いたことも無かったIT会社が上場を果たしています。一方にはECなどITを活用した小さくて小回りの利く会社、もう一方は労働集約型と言うIT市場の特性に乗った会社に大雑把に分類できると思います。

前者は恐らく淘汰や買収・統合による集約が訪れるのでしょうが、基本的に成長の流れにあると思っています。が、後者は正直、厳しいと思うのです。それが、ここまで書いてきたSESを中心とした収益モデルにあるからです。まず従来から抱えている問題として、収益の源泉が「人頭」に依存している事があります。派遣業と同じ構図です。派遣に比してSESの場合、概ねの相場観があり、特に景気後退期には単月費用を値引きの対象にしていまうなど、オフショアの攻勢もあり厳しい環境で生き残ってきました。この点は素晴らしいことだと思います。
しかし、この構造のために社員の給与を上げることは利益率の低下を招きますよね。
オフショアの信頼性や人件費の上昇、また様々な経費から、価格競争には一定の歯止めが掛かったとは思います。しかし、長年、人件費の抑制で培ってきた業績は一朝一夕で急カーブを描けるものではありません。
また、人材の確保も実態は麻痺を起こしているのではないかと思うくらいに問題です。やはり給与、そして働く目的などから優秀な人材ほど中途退社をしてしまっている状況です。彼らにしてみれば市場価値のある間に、他に移った方が良いというのは自明の判断でしょう。その一方で、残った人材を悪く言うわけではなく、やはりSESと言う文化に同質化していく方向になってしまうのではないでしょうか?

ただ、SESが早晩絶滅するとは思いません。一定の需要は常に存在し続けるはずです。しかし、そのパイは小さくならざるを得ない、いやパイに対して大きすぎたのだと思うのです。
従来は事業会社のIT部門の軽量化に伴ってパイが成長してきました。オフショアなどの進出があっても許容可能なレベルだったのだと思います。しかし、その中で「自社の優位性」について真摯に向かい合っていたのでしょうか?
あるSESの会社さんでは、少ないながらもプライムで保守案件などを持っています。その取締役との会話で「うちの強みを活かした提案ってできない?」と気楽に言われてしまった思い出があります。「強み?具体的に例を挙げられますか?」と質問してみると「それが判ってれば、聞かないよ。何でも良いんだよ」と…。
(いや、それ御社の強みじゃないですよね)…。
異口同音とは言いませんが、似たような話はあちこちで聞いた事があるのですが、やはり回答はないのです。良くて「あるはず」です。
私の視界で言ってしまうと、その状況は「無い」です。
国内で元気だなと思うようなIT企業、特にパッケージやSaaSを持っているような会社では、売り出し中のソリューションが過去何年も会社や経営者の経歴に紐付いています。私自身の卑近な経験で考えても、毛色の新しい製品やサービスを担当する時に「やれそうだ」と思えるかどうかは、自分が過去に経験したソリューションとの類似性の有り無しがポイントになっています。汎用機、DBMS、OS、ERPCRMミドルウェア、金融…。恥ずかしいくらいに沢山の分野や製品を経験してきましたが、重なり合う部分が見つけられれば、すぐに立ち上がることができるのですね。
しかし、これは自分が気づかないと経験を活かすまでには至りません。外から「○○と似たようなもんだから、大丈夫だよ」と言われても、いわゆる「腹落ち」しないと(石頭な)私には大丈夫と言えないのです。
先ほどお話を書いた役員さんたちの会社に転写してみても似たようなものかな?と思うのですね。
例えば、取引先のリストと要員展開しているシステムや分野などでマトリックスを作って見ます。そこから、深堀や新規事業の可能性のリストと紐付けをして提示してみた事があります。件の役員さんにはウケます。しかし、役員さんから現場の部課長に見せると反発とは言いませんが「無理」の同義語が山のように出てくるのです。
・あれはAさんだからできたので、Aさんに聞いてみないと
・既にZ社では似たような取り組みが始まっているので、いまさら提案はできません
・今、Bさんが暇だから勉強させる意味では良いですけど、時間掛かりますよ。
などなどなどです。
本来、リスト化した意味は「例示」なのですが、あたかも「定食メニュー」のように、リストから展開したような意見は出ずに「無理」「ムリ」「むり」「Muri」の山なのですね。そうなると役員さんからのフィードバックは「うち、力ないんだねぇ」と…。
いや、役員さん、本当はココから時間を掛けて方向性をつくるべきなんですよ。と言っても馬耳東風。というか、傷心モードに入って言葉が風に吸い込まれてしまったように感じました。

いくら会社がAI、FinTech、RPAと叫んでも、自社が培った強みと言う根っこがなければ厳しいと思っております。