新事業を立ち上げたいなら

さて、では強みの無い会社が何をすべきなのか、私なりに考えているところを書いてみましょう。
やるべきこと
1. みつける
 むかし、むかしの流行語に「選択と集中」というものがありました。パナソニックが大胆な改革に入るときに打ち出したスローガンだったと思います。考え方は似ていますが、集中できる分野を見つける事が必要です。
 集中できる分野とは、価格競争など不毛な競争状況に陥っていない、勝てる要素のある分野ということです。時に新規事業を検討するというからリストアップされた多様な分野へ幅広な対応をしてしまう会社がありますが、選択を正しく行い、できるだけ集中していく必要があります。そのためリスクや事業計画などを綿密に検討することも重要ですが、一方で迅速な対応も求められます。
2. 修行
 強みがあれば修行は必要ありません。しかし、それが無いのですから、修行の期間が必要です。もし外資などベンダーの代理店や提携先を模索するのであれば、プロフェッショナルサービスや営業として形式はともかく出向のような状況をつくり、できるだけOJTの体験をするべきでしょう。
 SESの会社では、しばしば「プロジェクトでの体験」を求めるケースが多いのですが、実際にはプリセールスや営業などフロント業務から修行していくことで、要員育成のオーバーヘッドが減らせますし、フロントエンドに携わることで、案件先や市場の意向を汲み取る事ができます。
 ただ難しいことは、こういった人材をSES会社では育成しきれていないことです。以前にも書いたように「技術的には可能だが、現実解ではない」提案をだしてしまう人材しか対象にリストアップできないのであれば、受け入れ先とも話をして、矯正していく必要があるでしょう。ただ、これは受け入れ先のソリューションや体制によって変わる所ですが。
3. 組織
 初期の組織は小さいほど良いでしょう。最小構成は携わる人間も一緒に考えるべきですが、逆に一人に全てを押し付けてはいけません。小さいことでリスクも小さくなる一方で、将来の組織作りに柔軟性が与えられます。また小さい組織として一定の独立性を持たせることも重要です。この事で、いわゆる「気づき」に素早い対応が可能になりますし、逆に要員は「気づき」を大切にすることができます。ビジネスの立ち上げは当たり前のように当たり前には動かず、実際、計画段階では気づかなかったことが毎日のように、壁となって立ちはだかりますね。この壁を乗り越えるためにも、小さく強い組織を作り、経営が後押しする体制を作る必要があります。得てして経営の方は立ち上げの後は組織に任せてしまう場面を見てしまいますが、むしろ応援することこそ本義なのではないでしょうか?

やってはいけないこと
1. 余剰人員対策
 失敗の原因で一番多いのが、携わる要員です。最悪なのは「今、時間のある人間」です。こうなると前述のような修行にも耐えられませんし、将来の組織像も明確になりません。また、こういう形で開始をしてしまうと次に類似のことをやろうとしたときに「俺、不要な人間なのか」と携わる要員がネガティブなマインドになってしまうので、決してやってはいけません。
2. 公平原則の適用
 企業は大なり小なり、幾つかの部門に分かれています。そのため公平原則が意識しなくても出来上がっているのですね。全ての組織が平均的に忙しく、平均的に業績を上げているのであれば正しい原則だと思うのですが、一方で、新規事業の場合は平均以上に忙しく、平均以下の業績にしかなっていないはずです。公平性を担保しようと思えば、当然、新規事業の担当者に対する評価はマイナスになってしまいますし、最小化された組織では予算規模も自ずと小さくなってしまいます。この状況では、いざ展開ができ始めたときに広報も人材登用も後手に廻り始めます。もっと悪いパターンは業績が上がるまでは「欲しがりません、勝つまでは」で無理やり『働かされる』状況に追い込まれることです。こうなると、事業がつぶれるどころか大切な要員までつぶすことになりかねません。
3. 感情的な逃避
新規事業を立ち上げる立場、企業では経営層だと思います。精魂傾けて立ち上げたビジネスが花開くことなく終了してしまうこともあります。あるいは諸般の事情でクローズを求められることも。
そういった中で、最悪の閉じ方があります。それは「思い通りに動かない」「思ったより手間暇かかるな」と感情的に閉じてしまうことです。意外かもしれませんが、対外関係などからグダグダしてしまい、論理性のないところで事業をたたむ例を幾つも見ています。その防止のためにも要員には日ごろからキャリアパスも含めた合意形成をする必要がありますし、事業継続のポイントを客観的に把握、そしてできれば共有すべきだと思うのです。