IT屋の業界団体

時々不思議に思うことがあります。
日本では様々な業界団体がありますがITの分野では聞いた事がありません。
いや、正確には小規模な団体は有りすぎるくらいにあるのですが、業界の意見を取りまとめるような団体は無いのですね。

先日、働き方改革が国会で討議され、その中で高度プロフェッショナルが話題に上がったときに"SEが高度プロフェッショナルに入れば死んでしまう"(意訳)という発言+ヤジが野党側からありました。これをニュースで見たときに非常な違和感を覚えたのです。
・これではSEがブラック職種としてレッテルが貼られてしまう
・SEの就業環境を悪化させている要因について、まともな論議が行われてきたのだろうか?
・IT業界の大半が労働集約型の産業に位置している以上、SEと言う従業員側だけではなく、商材として使っている雇用者側の問題改善意識は?
とかとかです。

まじめな話、バブル、ITバブルの頃のSEに比べれば、今はかなり時間制約は減ったように思います。特にSESと言う分野が確立するにつれ、時間外労働=経費増大の幅増大。と言う図式が成立しやすくなったことも一因かもしれません。
その一方でSES契約を結ぶ場合、一ヶ月の稼動時間を幅で契約する事が多いようです。例えば130h/Month〜180h/Monthという感じです。一見フェアに見えるかもしれないのですが、一ヶ月の平均稼働日数を20日と考えると下限で6.5h/Day、上限なら9h/Day。一日の稼動時間を9:00〜17:30とすれば、7.5h/Dayですから一日1.5hの残業=8時終業でもSESの提供社が被る形になります。
ただ、実際には有給や突発的なこと、またゴールデンウィークや季節休暇など下限を下回る可能性もあるため、給与水準を上げないことでリスクのヘッジが行われているものと思います。

更に"ネゴ"の問題があります。SESを行っている場合、いわゆる二次請・三次請と下請がデフォルト化している会社が少なくありません。この場合、お客様から見ると(形式的には)元請会社と下請の区別はつかないのですね。また先ほど書いたような稼動時間の上下限は関係有りません。いわゆる「請負」と「委任」のギャップが明らかになることがあるのですね。SESは委任契約で最大前提は「稼動時間の遵守」です。これに対して請負は成果物の完成にあります。元請が請負の場合、見積の精度が低いとSESの稼動時間は、あっと言う間にショートしてしまいます。こうなると、上限を超えて"追加料金"が発生することになるのです。最近、更に問題が根深いと思うのは元請にとっても契約上は"委任"のプロジェクトが、実質は"請負"状態になっていることです。本当によく聞く話で、この場合、見積は"委任"として精度が上がっておらず、かつ成果物や品質基準がお客様から提示されてしまい、過少見積のままプロジェクトがキックオフされてしまうのですね。この状況だと恐らく「SEが死ぬ」は、概ねTrueな状況だと思います。
特に品質基準や成果物の規定が後から決まってしまうと、それに応じたスキルセットをもったメンバーが参加していないと
・根性で基準や規定に沿った成果物をつくる(努力をする)
・人を追加して規定に沿った成果物をつくる
・諦める
の3つしか道は残っていません。諦めるという選択肢がない場合(笑)、追加予算を計上させる人の追加か、メンバーに努力を強いる根性の2通り。正論ならば人の追加に走るべきですが、
・お客様とのネゴが必要
・力関係でお客様に負ける
・必要なスキルや経験の文書化(Job Descriptionの明確化)ができない
・JDに見合う人を探す時間が必要
と簡単に考えても4つのハードルがあります。恐らく(私の思うヘッポコ)PMや元請IT会社の方は最初のハードル(お客様とのネゴで負ける)を想像した段階で、SEへの根性論という選択に入るのでしょう。
つまり、SEがSEを殺すのです。

これは、例えば運輸業の場合「荷主勧告制度」としてお客様と取引業者の力関係で「無理が通れば道理引っ込む」という契約や業務実態が起きないよう、法整備なども行われています。しかし、IT業界では犬小屋の発注で、出来上がってみたら高層ビルなんて案件もあるのです。いや、犬小屋と聞いていたのに、作り始めたら2階建てのエレベーターつきと言う状況ぐらいですかね。逆に実態として犬小屋しか作った事がないのに、高層ビルを作ろうとする会社もありますが…。いずれにしても『力関係』が余りにも大きく影響する業界なのではないでしょうか?

その結果、人材を潰す、あるいは逃げられるように印象付けられてしまっている状況を打ち破らなければ、やはりSES主体のIT会社は厳しい状況に日々追い込まれていくと思うのです。業界団体でも作って対抗していく必要があるんじゃないでしょうか?