データは保護主義へ向かう

以前も書いたと思うけど、このままで日本のIT業界は成長できるのだろうか?

まず、SESが多すぎる、いや多重請負構造が強すぎる。
多重請負の中での力関係から、待遇・給与・ワークライフバランスまでが決まってしまう。
そんなところに若くて優秀な奴が来ない。
優秀な若手がいないから、どうやっても外人に頼るか、今の状況を維持することに汲々とする。

と言うバッドサイクルは書いてきましたね。

で、もう一つ、以前は「アメリカに10年遅れている」といわれていたソフトウェアの話です。
当時、ハードウェアについてはNECや日立などもメインフレームを出しており、官公庁などを中心に大きなシェアをもっていたため、焦点が当たっていたのはソフトウェアの部分だけでした。しかし、いまやPCすら国産が珍しくなった時代にあってソフトウェアの遅れは取り返しがつかない状況に追い込まれつつあると思っているのです。
ただ、「痒い所に手が届く『PCソフト』」や「日本の習慣や法制度に基づいたシステム」と言った所は、まだ良いのですが…。それ以外はAI分野の開発などで一部、頑張っているだけではないかと思ってしまうのです。

この状況で恐ろしいのはAIを含めたPaaS、そしてSaaSの発展です。
例えばAIのPaaSで考えて見ましょう。AIとビッグデータとは不可分な関係にあります。データ量が多ければ、それだけ学習機会が増やせるので、精度の高い結果を導き出せると言うのが(ごめんなさい、どしろうとな解説です)実情です。また現状、スクラッチの状態からAIを開発するだけの体力がある会社が少なく、特に日本のIT会社が手を出すときにはGoogleなどを使うケースが多いと思うのですね。
確かにGoogleは他のプラットフォームに比べ安価で安定性などを含めた実績もあるので、非常に提案もしやすいのです。が、その一方でビッグデータ、つまり大量のデータをGoogleに提供することになります。BPRCなど新たな個人情報保護への取り組みもあり、本来は安易な提案には載せられない状況にもなってきましたが、更に言えば国内での発生した大量のデータは、国内に蓄積されずGoogleの手の内に収まってしまいます。
SaaSで考えて見ましょう。例えばネットバンキングを使うときにリスクベース認証といって怪しげな場合だけ追加で認証行為をさせるような仕組みができています。この認証はECサイトなどでも広まると思いますが、精度を高くするためもありSaaSでサービス提供されているものが多く有ります。これもGoogleと同様に全てのデータはSaaSベンダーの手の中に入ってしまうのですね。

BPRCについて、最近、またチョコチョコと見る機会がありましたが、そこでフト思ったのは「あ、情報には保護主義が先行していくんだな」と言うことです。BPRCの場合、EU等の居住者の個人情報は一部の認定されたEU域外の国を除いて、使いづらい状況になりました。アメリカでは従来から愛国者法での規制があります。つまり一定の領域や国家の外に、個人情報が持ち出せない方向性が強くなっていると思うのです。
「そんなことを言っても、ECなんかは国境に関係なく買い物ができるよね」
はい、その通りです。ただ、先ほど触れたBPRCは国内のECサイトにも影響を与えます。下手なことをすればサイトの規模に関係なく巨額の賠償請求がくる可能性もあるのです。日本の国内法では守ってもらえない状況なのですね。
このように少なくとも個人情報が国家の域内に閉じ込められた状況になると、もし日本のベンダーが後発で同様のPaaSやSaaSを構築しようとしても、データ件数が明らかに足りず、競争にすらならない可能性があるのです。
「今だってOSはアメリカ製ばっかりだよね」
はい、その通りです。その影響もあって、今、日本のソフトウェア業界は国際的な競争力を失ってしまったと思っているのです。例えて言えば、欧米、特に英語圏横綱とすれば、日本は十両・幕下かも知れません。それが「今」です。しかし、今後のことを考えると土俵にすら上がれないかもしれないと危機感を抱いているのです。

また、10年ぐらい前のシリコンバレーを思い出すと、白い人は当然として、ハイレベルなポジションにインド系がザクザクとおり、ミドルレベルには中華系がサクサクといる状況でした。そこに日本人は?と言えば、ほんの一握り。ベンダーによっては「日本語化担当」みたいな感じで、ちょこっとだけいるイメージでした。インド人の殆どは理工系の博士号もちが多いのも確かですし、彼らのコミュニティーがシリコンバレーどころかヨーロッパにまで伸びているのも有名な話です。
日米での貿易状況で考えると、全体としては日本が黒字なのでしょう。しかし、ITに限ってみれば完全な赤字だと思います。特にソフトウェアの分野は…悲しい状況ですね。
「インドや中国だって自国に有名なIT企業はないじゃん」
はい、その通りです。ただ、一方で彼らは人脈構成が盛んです。中華系ならオフショアでの参入もあります。インド系はオフショアの他に先ほども書いたようなトップレベルのコミュニケーションが「IIT学閥」で出来上がっています。
下請と言う分野と、経営と言う分野に、この2つの国は差し込めているのですね。

では、日本は?と言うと…。です。

狭窄した視野からは、少なくとも○○T-Dataや○士通などの大手IT企業が元気なうちは、まだ財政力で生きていけると思うのですが、どこまで…かな?と疑問を抱いています。寧ろ若い経営者がチャレンジしている小さな会社が早く世界に打って出ていく状況にしないといけないと思うのです。昔に比べ、クラウドファンドやエンジェルなど銀行以外の資金調達が楽になっていることは良いと思っています。更には、大手企業が支援できる体制を取れれば、信用不足なども解消できるはずですし、ローンチするときに重要な市場の把握すら楽に出来ると思うのです。
この当たりは、社内で新規事業を起こすときと全く同じロジックですね。