先手必勝

下請としてSESを主体にビジネスをやっている会社が新規ビジネスに立ち上げようとして、上手くいかないパターンがあります。
最も多いパターンが「3rd Party製品を担ぐ」と言うモデルでしょう。

特に海外製品で日本に乗り出してくるときには担ぎ手としての参入障壁が小さく、また他社が検討や少しでも先に行っていれば、リスクも小さいように見える分、名乗りを上げやすいのですね。
さて、ここからが問題です。
担ぐときの先棒を持っているのが、社長さんや取締役などだと担ぎ上げるまでは社内で誰も反対していません。ところが担ぐ事が決まると、先棒にいた筈の人たちは応援に廻って、実際には「現場主導」となるのです。
ベンダーの立場では、パートナーシップ担当なども先棒から抜け出てしまう事があります。こうなると「○○社が△△国の■■と協業」という小さなプレスリリースが出たところで、実は何も動かなかった。なんて事も珍しくありません。
この壁を越えても、下請SES会社には
マーケティングができない
・リード生成ができない
・導入(適用)シナリオが作れない
などなどのナイナイづくしが始まります。特にリード生成と導入シナリオは、下請だけではなく大手でも苦労する部分です。これが「会社としての強み」があるか否かによって決まっているのですね。だから、ベンダーから見ていると、こういった失敗パターンに入る会社さんの要求は、ようやくできたリード先に訪問する直前になってから「事例が欲しい」と言い出し、そして訪問後は「もっと具体的な事例が欲しい」へと進むのです。したり顔の方からは「当たり前でしょう」と言われますが、このパターンで上手くいった事は「 皆  無 」です。全てが後手に回っていると思った方が良いのです。
同様に事例を求められる場合でも、先棒を社長などが担いでいた時点でなら、可能性は高いと思います。例えばスタッフや現場のマネージャーから闊達な意見が出る中で「想定に類似した事例はありますか?」とか「想定になるようなヒントはありますか?」と言う質問として求められているケースですね。この場合なら、自社の中で一旦、噛み砕いてから持ち込む訳で、一定の想定問答ができています。いわば先手を取ろうとしているのです。当然、ベンダーとしても、この時点で事例を開示する事が難しい場合もありますが、少なくとも健全なやり取りができるのです。

また先ほど書いたような「他者が少しでも先に進んでいる」ケースです。これは文字通り後手に廻っている状況なのです。最近では事業会社さんの方が寧ろ「手垢がついてるのは嫌だね」と言う場面も多いのです。ところが下請などリスクを嫌う風土が出来上がっていると、お客様のこんな声は聞こえるはずもありません。結果として先行した側には知見もリードも溜まっていくのに、後続となるとリードが出てくるだけで御の字の状況になります。そして、そのリードも直接ベンダーに問い合わせられた引合を貰い受ける形に集中してしまうのです。「いや実績ができてくるまでは辛いよね」とベンダーとSES会社の営業同士が傷をなめあうような場面は何度も見てきましたが、実際には実績を積む前に終わってしまいます。

ここまで書けばお気づきでしょうが、問題は「リード」です。いわゆる案件生成ですね。
全くの感覚的な話ですが、シニアの営業経験者を始め、どうもIT業界では変化に気づいていないのではと思わせる節があります。
以前にも書いた話ですが、既にシステムの追加や改善のキーは「事業部門」へ移っています。特にキーになのは「営業戦略」です。
「いや、ERPなど大型案件は経理や人事などバックオフィスだし、取りまとめが必要なのだからシステム部門は切り離せない」と言われるかも知れませんが、はっきり書いてしまえば
『いまさらERPの沼に入るつもりなのですか?」と。

恐らく長いスパンで考えてもERPなどの基幹システムがなくなることはありませんし、世の趨勢として新たな知見が生み出されてくるでしょう。でも、そこを狙う事が得策とは思えないのです。ERPの導入となれば、最低でも5〜6人のチームが必要です。並行稼動などを考えれば1年〜2年、ほぼ100%稼動でしょう。その間に次のリードに提案をし、また案件を確保しておかなければチームの維持ができません。潤沢にリードが出てくるなら案件と共に人材を育成できるのでしょうが、恐らくSES会社の風土では「並行稼動までの間に次の案件が取れれば良いや」となっていないでしょうか?こんなリスキーな状況は、お勧めしたくありません。
何故なら、リードの生成をイメージしていないからです。

以前、ある業務会社系のSES会社が大手ベンダー製品の代理店となった事があります。現場のマネージャーの期待は「これでリードが生まれる」だったのです。が、ベンダーとSES会社ではリードの概念が違います。
考えて見ましょう。SESならばスキルシートをお客様や上位の請会社へ提示すれば良いのですし、その引合は一定の確度で提示されてきます。多くはプロジェクトのキックオフに合わせるか…劫火の中で人身御供として鎮火に走るというタイミングですね。ですから、リード=契約なのです。ところがベンダーでは、引合が生まれた段階から代理店に案件を引き渡すことも少なくありません。まだ海のものとも山のものとも言えない段階です。リード≠契約ですね。当然、制約率は低いのです。ところが、代理店ビジネスに明るくなかったマネージャー氏は疑心暗鬼にかられます。「あいつら、うちを馬鹿にして確度の低い案件ばかりを流してくる」と。いや、確度が高くなったら、恐らく代理店が動く必要がなくなりますし、それこそSESを提供することしか期待されないのです。それがベンダーから見た代理店の責務なのですが…。
自分の経験でいえば、ベンダーのプリセールスとして健全にノルマや売上目標を見据えて働くためには、同時に3案件は抱えている必要があったと思います。できれば5案件は抱えていたいのですが、こうなってくると…私生活が破綻し始めるので、3案件が心地よいのですね。SESの会社の発想だと「3件の契約を見据えた体制をとれというのか?」と言う話になりますが、これも頭の中のネジを疑う話でして…。プロジェクトのカットオーバー時期やキックオフ時期などは、大抵、何らかの調整ができます。あ、RFPなどでスタートした案件ならば別ですが、引合が問い合わせベースで始まったケースなら、まず間違いなく調整できるのです。またSES会社の多くは、こういった代理店活動のために人を割り当てすぎます。「導入や設定の知見を養っておかなければ」と言って人を貼り付けてしまうのですが、プロの設定屋がプリセールスに廻るとですね…以前にも書いたように「技術的には可能だが現実解ではない」提案や「ビビリすぎ」た萎縮した提案に陥ります。確かにSES会社の視点はプロの設定屋が語らないと不安なのでしょう。が、正直、ベンダー目線で言うと「あれでプロ?」と思う事が少なくないのです。もう少し厳しく平たく言えば「商売の邪魔」です。
彼らの口から「これを使えば、この課題をクリアすることができます」なんて話は聞いた事がないのです。
「それって営業の台詞でしょ?」いや、違います。これを営業だけが言っているようでは、導入後の技術的な担保が果たせないのです。更に言えば、営業が説得力・背景のある提案ができると思いますか?経験からしてゼロではありませんが、稀有です。
重ねになるかも知れませんが、本来、一つの会社の中でも商流は出来上がるはずなのです。マーケティング⇒営業⇒プリセールス⇒開発・導入⇒サポートと言う流れです。
これが、更に健全に流れると、開発・導入⇒営業⇒(以下、続く)と言うサイクルが形成されて「Up Sell」が出来てくるのですね。
ところが下請SES会社の場合、営業職はいるものの商流が形成できていません。引合に対するカウンターや、要員「派遣」後のケアが仕事になっているのです。中にはガツガツとプロジェクト内での派遣要員を増やすように努力されている会社もありますが、それは顧客を「元請」としているだけで多重請負構造の中での適応種だとは思いますが…。

リードを作る方法論は、多種多様です。が、何らかのリスクから逃げるのではなく、受容あるいは軽減する方策を考えて筋を作らなければ先手を奪うようなことはできません。先手を取ることは難しい上に、無駄も少なからずあります。しかし、そこから先行者特権が生まれていることも確かなのです。