マーケティングって重要です

SESに限らず、20年ぐらいかな?以上の歴史と伝統に飾られたIT企業の多くで感じるのは「んで、どこに売るの?」と言う話です。
例えば外資ベンダーと協業を行った会社さんでは、プライムベンダーのポジションが殆どありませんでした。狙ったのは(言葉が悪いのですが)、ベンダーと協業する他のIT会社からのコボレ案件だったのです。これは、これで正しい姿ではあるのですが、ITベンダーとしては力の入らない協業モデルなのですね。と言うのも特にアメリカのベンダーが想定する海外進出やマーケティングは基本形が「ダイレクトセールス」です。IBMの製品をIBMが売り、IBが導入するという形です。
基本、ほぼ日本を除く各国おしなべて、このビジネスモデルで商売が成り立ちます。しかし日本では(特に旧来は)「口座を開ける」と言う前提が無ければマトモな提案も出来ず、そのためにIT会社が仲介(代理店)として動く必要がありました。また、欧米の会社が日本語で提案やプロジェクト活動のできる人間を雇うことは大きなハードルになっているため、IT会社のリソースも使いたかったのです。特にスタートアップでは必須とされていました。

と言うことは、先ほど書いたような会社さんの場合、技術者のリソースセンターとはなれても、口座開設に至る上流に入る事が出来ません。当たり前ですが、紹介・提案から動ける他の協業会社とは自然と競争力がなくなってしまいます。そこで彼らが考えたのが、そういった他の協業会社の分もリソースを提供するというモデルです。同様のケースはERPなどでもあるので、まぁ、間違ってはいないでしょう。
しかし、その会社のエンジニアさんと無駄話をしていたときに聞いた話で、ちょっと吹き出してしまいました。「うちの会社、技術力はあるから…あの製品じゃなくて自社で開発した方が良いと思うんですよ」。
実は同じような話をマネージメントレベルでも話していたので、恐らく受け売りなのでしょう。
が、ちょっと待ってくださいね。

「誰が、誰に売んねん!」と言う素朴&絶対的な前提が抜けとるのです。

太古の昔には、ベンダーがベンダーの知見や技術力を活かして製品をつくり、提供するということも出来ました。当時はお客様にとってシステム化すること自体が経験もなく、むしろベンダー主体で考えたアプリケーションにこそ効率化に対する最新・最高のノウハウがあったのでしょう。
ところが、現代において、そのような開発では「無理」なのです。

これは知人のいた会社での出来事ですが、米国企業のジョイントベンチャーに勤務していた彼にとっての競合先は(珍しく)国内製品だったそうです。そこに行っても「○○社の製品と何が違うの?」と聞かれ手しまうのが悩みでした。その一方で彼の製品は既に海外は当然、日本でも大手企業では採用されており、その実績を中核にプロモートに励んだそうです。しかし、やはり国内ベンダーの壁は厚く、またある時期から他の担当者も含めて売上が急速に落ちていきます。
そこで彼以外の営業担当者が米国に「○○社と同じような機能を持たせてくれ!」とねじ込んだのです。彼の会社のSEに聞くと機能の搭載事態はできるんじゃないだろうかと言うアドバイスもあり、強気に且つ必死になって説得したそうです。彼以外の営業が一丸になっていたという状況だと思ってください。なぜ彼だけ動かなかったのか…理由は類似の機能を搭載すると、
・今までも説明しにくかった「差別化ポイント」が更に不鮮明になる
ということに尽きると考えたからです。今まで何で大手企業が導入したのか、何で○○社とは違うアプローチをとっていたのか…売れない中で必死になって米国のエンジニアから拾い上げた情報・知識が彼にとってはバイブルだったのでしょう。そんな彼にとって他の営業社員が企てた製品機能改修は、勉強もせずに安直に売るための改悪に見えたといいます。

(ほぼ)全営業の総意はやがて実を結び、今までの製品のハイグレードバージョンのような形で○○社と同様の使い勝手を持った製品が開発されることになりました。ただ、彼はその機能に期待していませんでしたから、従来のままの製品を彼なりに様々なアプローチで説明のしかたを変えながら地道に売り歩いたそうです。そして約半年、ハイグレードバージョンの登場と同時期に、彼の営業活動も成果を上げ始めます。
他の営業は、新しいブローシャーを手に、今まで廻った会社へ再度、アプローチを仕掛けますが、彼だけは古い製品での契約を纏めにはいりました。が、彼の契約は新製品の登場を知ったお客様にとっては「あれ?そっちの製品も見せてよ」と言う一言で凍結状態に入ります。
また、他の営業は売りに歩くも、それまでの半年をほぼ活動休止していたために中々、成果は見えてきません。意図せず、初めて本格的に新製品を説明する立場におかれた彼ですが、それほど製品の新機能の熟達している訳ではありません。開発依頼の首魁とも言える営業、そしてプリセールス担当を引き連れて説明の場をセットアップすることにしました。彼としては「古いのでも、新しいのでも…あの場では、どちらでも良いから決まってくれよ!と思っていた」そうですが、ただ更なる本心は「出てきたタイミングが悪すぎた」と言うものです。そんな一歩身を引いた彼は、お客様と首魁とのやり取りを聞く立場として参加したそうです。説明⇒デモと流れ、それほど目立った質問も無いままに終わった説明で彼は嫌な予感がしたそうです。そして直後、「彼さん、少し残ってくれる?」と言われ、他の人を見送りました。お客様2名と会議室に戻ると
・あの製品を新たな主力として説明されたことに失望した
・○○社の製品を知らないから、「似ている」ポイントとしてカタログ的な部分にフォーカスしているとしか思えない
・実態はモンキーコピー以下のレベルに見える
・本来持っていた使い易さが、機能として消えている
・寧ろ今まで低評価だった他社製品の方が優れていると思わせてくれた
・旧来製品との並行あるいはアップグレード版なら兎も角…新主力があれでは、契約はできない
と告げられたのです。彼は必死にアップグレード版だが言葉が過ぎたと説明したのですが、運の悪いことに首魁氏は彼の上司、肩書きも「営業本部長」です。彼の説明は言い訳にしか受け取れない重さがあったのですね。
結果として、彼はこのままクロージングに失敗し、他の営業もコミットした時期までに1件の契約も結ぶことは出来ずに終わってしまいます。
その後、その会社がどうなったかは…内緒と言うことでお願いします。ただ、これは作り話では無いことは信じて欲しいですね。
で、ここから学べることは何でしょう。
・甘い市場調査では、ユーザーが求める姿は見えてこない
・ユーザーが求めているのは良いもののコピーではなく、ユーザーにとっての使いやすさや解決策
・解決策が他社のコピーでは、他社よりも高い訴求力を持たない
ということです。

これが「頭でっかち」の開発で失敗するパターンです。そして、もう一つ、この教訓にも含まれていますが、市場の窓ともいえる「お客さま」をもっているかどうかです。先ほどの例は、お客様との会話も無く「これだー!」とコピー元を見つけて製品のコンセプトを作ってしまいました。以前にも書いた「要求」の中身がないのですね。単機能製品なら良いのですが、幾つかの機能…例えば作成⇒参照⇒編集⇒結果印刷という、かなり単純な機能の並びであっても、例えば「誰が?」「いつ?」「どのように」などの要素が見極められないと使い勝手を論じるレベルには到達しません。
これがシステムになれば、なお更なのです。そのため、単機能の実装でも周囲に及ぼす影響が理解できなければ、実装には至りません。もう少し続けます。
この様に実装に至らない事を予期して、機能改修を依頼しないことも間違えです。私自身のある製品の機能改修を依頼した経験でいえば、
・改修をしないことによる「不便」や「不具合」のリスト化
・改修対象したときの機能仕様や望む性能
・市場としての受け止め方
・その時点での案件契約で影響する売上の変化
は纏めます。
そこからが開発やマーケティングとの議論になります。
・要求した仕様が、製品の他の機能や性能に影響を与えるのか
・実装は技術的に可能なのか
・可能な場合、実装優先度を上げられる状況にあるのか
と言う事を半ば説得、時には脅迫(?)で上申しなくてはなりません。

余談ですが、外資ITに「この機能を改善して欲しい」というと「はい、改善要望としてエスカレーションします。ただし、実現についてはお約束できません」と言われることがありますが、こんな社内交渉はしていないと思ってください。単に「エスカレーションボックス」と言う目安箱に投げ込んだだけですから。

さて、では、ここまでと同等以上に頑張って新製品や新機能を盛り込んだとしましょう。で、はたと気づく事が多いようです。「どこに売りに行くの?どうやって資金回収するの?」という素朴な、そしてとても大切なことに。

だから書いたんですよ、「市場の窓」をもっておけと。
市場の窓のようなお客様がいると、特に複数持っていると、製品のあるべき姿と共に、あってはならない姿が見えてきます。これが言って見れば製品の「セールスポイント」になるのです。よくBuzzワードを使って説明する人がいますが、Buzzっている言葉は、大抵、競合製品でも持っているのです。また、市場の窓が「版権」を持ってしまっては、新製品ではなく単なる「受託開発」に終わってしまいます。この「握り」ができなければ、諦めるべきでしょう。言い方を変えれば、ここにこそチャレンジの第一歩があるのですね。
その為に営業や経営として感覚を養うべきことは「マーケティング」です。何が求められているのかを聞き出して提案する。そしてパッケージやSaaSとしての値ごろ感を把握する必要があります。ビジネスモデルも作らなければならないかも知れません。当然、開発に必要な予算などエンジニアからも情報を集約しなければなりませんね。こういった事を纏めることで、要求されている事を100としたときに60で勝負ができるのか、あるいは120積み上げる必要があるのかを決断する必要があるはずです。この舵取りこそSES会社の経営には出来ないことだと思っています。私流の、プリセールス観点のマーケティングのあり方(の一つ)だと思うのです。