SESの提案力

 

 【提案力】業種・業務の知識を元に、対象となるお客様の課題を解決する力
と理解していた私ですが、どうも下請中心のSES会社さんでは違うようですね。「単価が安いから、提案に持っていける」と言う話を何度か聞いた事がありますので、SEさんの月額単価が安い事が「提案力がある」となるようです。

 悪いことを書くようですが、こういった発言を聞くと「あなたの人件費が掛からなければ、もっと提案力が上がるんじゃないですか?」と思ってしまう私がいます。

 従前から書いているように、下請を中核としていらっしゃるSES会社さんでは、中々、若手のスキルが上がってこないことを懸念されているのですが、この発想がある限り、上がるはずがありません。既に悪循環に入っていると理解されるべきです。

 大昔、大手にいた頃ですが、顧客満足度調査や業界誌の調査で自社の提案に関する評価が低かった事を思い出します。実際、お客様と会話していても「うちも調査に答えたけど、実際、そう思われるよね」と言われていましたし。その提案と言う言葉が、どうしてこうなるのでしょう。
「下請発注に課題解決力なんて求めてないし、求められていもいない」というのが、実情なのでしょうね。

 ですから若手に「スキル」が付かなくても仕方ないのです。ここで言う「スキルはプログラムが早く書ける」、「ツールを使いこなせる」と言うスキルではありません。お客様の課題を理解するスキルを指します。これも従前から書いていた事ですが「コードに逃げる」や「技術的には可能」な事ばかりをやっていると、お客様への現実課題には対処できても、その背後にある「思想」にはタッチできないのです。いや、思想と言ってもルターやマルクスなどではなく、企業としてのIT戦略やバックグラウンドなど、表層的な課題解決へのソリューション策定の背景に位置するものです。

 例えば「疎結合」と言う言葉があります。恐らくWS、JSON,SOAPなどがピンと来るはずです。例えば、会計システムと組み合わせた勤怠アプリを作ろうと思えば、疎結合も密結合も関係なく実装する事ができます。以前、ベンダーにいた頃には「XMLのタグの分だけ、ネットワークへの負荷が上がりそうだから止める」と言う話を聞いた事があります。これは選択としてあっても良いと思います。が、「将来的に、貴方の会社の製品を使い続けるかも知れない。別の会社に移るかも知れない。基幹系も変更する可能性がある。だから貴方の会社で疎結合環境を実現しようと思う」と言われたこともあります。これも正しい判断だと思います。両者共に、「思想」があると思うからです。
 「じゃ、お前が言うSESのデメリットも、SES会社としては思想なんだから良いじゃないか」と言われるかも知れませんね。

先ほど書いた「思想」でも、疎結合に対して密結合のメリットは非常に小さいと思っています。特に外資にいた人間の感覚として、その会社が持つ製品…いや、会社そのものが無くなることもあり、その時に製品の中で自分が信じていた優位性が失われるかも。と言う体験を実際にしています。その事を考えると、密結合状態でシステム更新・入れ替えが困難な状況にしておくことは「一時的」には理解の出来ることですが、長い時間軸で考えるととてもリスクが高いと言わざるを得ないのです。このような例で考えれば、SES自体がコアになっている姿には「一時的」なメリット、軸としての有りようは理解できるのです。が、長い時間軸と、技術的な変化の中では、今の大量にあるSES会社とその従業員・要員を養っていけるだけの市場があるのか?業績を伸ばすだけのパイが用意されているのか?と言う疑問が残ります。

 それだけに、「思想」が必ずしも「正」とは限りません。思想に反したものを拒絶する免罪符とはならないと考えています。、
・全社的?部門?個人?
・永続的?一時的?
・堅固?脆弱?
と考えておかないと、売る側の立場で言えば、斬新であるほど、自社が持つ考え方・システムが提案できなくなってしまいます。また、買う側の立場では時流に伴う変化への対応が取れなくなってしまいます。変化に合わせる柔軟性を持つ事ができない時点で、思想を変革する必要があるのです。


「うちのお客さんに思想?無いと思うよ」と言われそうですね。実際、私もお客様と会話していて、こういった思想が現れない場面は幾つも経験しています。例えばBuzzワードの「ビッグデータを」とか「Fintechで」とかって言うお話を聞くこともあります。そこから先への考え方は出ない。担当している領域での課題などは御提示いただいても、具体的に自社で何を取り組むべきかを提示されない。裏打ちする戦略や思想があれば、「ビッグデータを使ったマーケティングを行いたい」とか「Fintechを応用した顧客管理をやりたい」と言う、より具体化した会話ができると思うのですが…。力不足でしょう。私のね。

ただ、私の経験上、こう言った話しかしない「キーパーソン」は事業会社、お客様との会話はレアケースです。事業会社の一員としては何も模索していないか、あるいは丸投げする事を考えていなければ、こんな状況で時間を潰している暇は無いのでしょう。
できるキーパーソンとの会話から提案が王道だと思うのです。人件費が提案だと思っている限り、この王道には乗らないのでしょう。