使えない代理店

以前、外資IT会社の国内スタートアップを担っていた友人との会話で「ツカエナイSIer」と言うネタで盛り上がった事があります。
当時は今と比べて事業会社のIT部門が強く、外資の、しかもスタートアップが独力で参入することは殆ど不可能な状況でした。そのため、いわゆる「口座」を持っているSIerに担がれない限り、どうにも動けないと言う背景がありました。

ただ、彼も人脈はあり、幾つかの事業会社に直接アプローチもしていて、その度に「どこかの代理店を連れてきてくれたら、本格的に話をしよう」となっていたそうです。実際、既に大手1社が代理店として前向きな検討に入り、同じく大手1社が検討しそうだと言う事でした。ただ、2社ほど中堅のSIerに話をしているのだが、どちらも毎週「前と後を行ったりきたりしてるのよ」と言うのです。両社ともに窓口は立っているのですが、その窓口の方が仰る事がハッキリしないのだと。特に困っていたのが、ダイレクトにアプローチしている事業会社へ連れて行こうとしたら、いきなりSTOPが掛かり、事業会社との調整で微妙な空気を作ってしまったことでした。

どうやら、SIer内での検討の方向性、理解としては「概ね問題なし」と言う状況になっているのですが、具体的な話に突っ込むと組織や要員、工数などで強い揺り戻しが起きてしまっているようです。

この話を聞くと「ははぁーん、新規事業の壁ですよ」となるのです。

以前から書いていることと被りますが、SIerは絶対的に「新規事業」の種を欲しがります。彼ら自身が、収益(率)の上昇、引いては上場や株価の上昇を求め、最終的に企業としての将来性を考えたときにSESでは自ずと限界が早く来ることを知っているからです。
ところが、現実にはSEには100%の稼動を求め、またプライム契約をしたときの恐怖(リスク)アセスメントができません。提案から乗ることで、失注したときの「取り返し」が気になってしょうがない訳です。
そして、更に「取り返し」を気にしつつ「重厚なチーム」を作ろうとしてしまいます。スタートアップ側の布陣は、友人1人です。が、大手SIerで10人程度、中堅2社が5人程度のチームで動こうとしていると言うのです。そこでザックリ計算すると
総人員
 1 + 10 + 10 + 5 + 5 = 31
内、営業系
 1 + 1 + 1 + 1 + 1 = 5
内、SE
 0 + 9 + 9 + 4 + 4 = 26
です。SEだけを見ても、相当な要員を抱えることになるのですね。正直…私が経営なら、まだ海のものとも山のものとも言えない段階ですから、SEは2名ぐらいでスタートしたいところです。ところが個社で見ても遥かにオーバーしている。と言う事は、プロジェクトのスタートまでの期間が言わば「時限爆弾」になりかねないと思ったのです。大手は体力もありますし、それなりにプライムとしての提案など経験で時限爆弾を破裂させない仕組みを持っていそうですが、中堅となると危険です。その為に、揺り戻しが大きく出てきたのでしょう。

ただ、これはベンダー側が主導した結果、リスクなのかも知れませんが、もし案件化した場合、特に中堅では代理店側が引き起こすリスクが大きくなります。それが「プロジェクト審査」や「稟議」、「プロジェクト会議」などと言われる社内審査体制です。大抵、こう言うところでリスク判定を行い、然るべき対処を会社や部門として判断する訳ですが、ここが厄介を引き起こす事が少なくないのです。一つは「形骸化」です。取締役なども参加して内容の評価をするのですが、実態を把握する術を持たずに説明や売上、経費で判断になります。その際、「何かあったら、現場で対処してくれ」「色々意見が出たけど、それを踏まえてくれ」などが『結論』とされてしまうのです。中には「これ、プライムでやるの?」とあからさまに下請SESへの郷愁を露にすることもあるそうです。こうなると、そもそも「代理店として」って話はなくなるんですけど…。こう言ったブレを抑制するために、リスク要素などを明らかにして検討すべきなのですが…下請SESで培った伝統には、こう言った定量評価が含まれていないのでしょう。
私自身、中堅以下のSIerが案件をベンダーに案件を持ってくるケースで似たような経験がありました。「競合ベンダーの製品を使ったプロジェクトが既にスタートしているが、障害が多すぎて遅延が出始めている。どうにかならないか?」と。営業から見たら、
・契約締結⇒短期間!のはず!
・価格交渉⇒契約が人質になる!はず
・適用範囲⇒明確!なはず!
と「想定」はバラ色!!!なのですね。ところが、DNAが下請SESだったりすると
・契約交渉⇒お客様への製品置換の説明が付かず、泥沼化
・価格交渉⇒既にプロジェクト予算を使い込み、ゼロベースから交渉
・適用範囲⇒謎の「アジャイル」だとか、「準委任」で不明確箇所多し(ライセンス数が確定できない)
で、営業としても辛い状況になります。
更にプリセールスとして参画すると、マニュアルに書いてあることを、一々噛み砕いて説明したり、中にはサンプルコードと言う名の成果物を要求されたりするのです。プリセールスから見れば、「辛い」を越えて「代理店って…なに?こっちが代理してない?」って事態です。当然、こういう案件にぶつかると、他の案件など手が回らなくなります(外資の場合、インセンティブに直結します)。

新事業をお考えの中堅SES会社の方々には、
・リスクの定量
・小人数でのスタートアップ
・時限爆弾を抱えない案件成立
は最低限、考えて頂きたいものです。

そして、もう一つ。引合に出したのとは別の製品ベンダーさんとの会話を思い出しています。その製品はUI開発に特化した製品で、ソリューションを組み立てる中では中核にはならないレベルの軽量システムでした。やはり、中堅SES会社が代理店となったのですが、その時のベンダー側の苦労話に
1. ドアノッカー(顧客訪問などの理由付け)にしか使われない事が多い
2. 軽量な製品故、適用ケースを語る必要があるがSES会社には出来ていない
3. ベンダーが訪問に付き合わなくてはならない
4. 「で、うちの何処に使えば良い?」と言う顧客側からの質問に誰も答えられない
5. どうやら中堅SES会社では「使えない製品」と囁かれている
と言うのですね。いやぁ…真面目な話、多いんです。特に基盤やミドルウェアなど、アプリケーションを作るための製品となると「顔」が決まっていないのです。プリセールスの経験では、初回訪問前に想定(一応、サイトやIR情報なんか見ながらですよ!)で、「顔」を決めていくのです。それが外れていても、類似の課題をお客様から引き出す誘い水にもなりますから。ところが、それができない、「顔」が決まらないと…「使えないねぇ」で終了です。決して製品が悪いわけではなく、ドアノッカーに使うものを間違えているんですけどねぇ…。