事例への信仰心

事例に関する勘違い

さて外資のベンダーにいると必ず要求されるのが「事例」です。
確かに英語も含めれば、多くのベンダーが事例を公開していますが、実は、あれよりも細かい情報が各拠点に共有されているかというと疑問です。
ですから、「あの事例で必要だった工数は?」とか「金銭換算で幾らメリットが?」と聞かれても答えようがありません。
すると「そんな、カタログ並みの情報で事例とか言っちゃうの?」と言われるのですが、言っちゃうしか無いんです。
いや、寧ろカタログ並みの情報でとどめる必要があるんですね。但し、前置きとして「開示できる情報は可能な限り調べた上で、言っています。」だけは、主張します(笑)。

さて、なぜカタログ並みで済ませなきゃならないかというと、基本、事例の所有者はベンダーではなく「お客様」だからです。実際、自分が携わったお客様での情報なら知っています。が、それだって開示は出来ません。そう言うと「お客様の名前は秘匿で良いから」と言われるのですが、既にサイトで導入済み顧客としてロゴが貼ってある先と混同されたらエライことになりますから、丁重にお断りするようにしていました。(ただ、何も考えていないマネージャーさんや営業さんが何を語った…騙ったかまでは知りません)
実際、アメリカなどのベンダーが導入の実プロジェクト全体を運営することはありません。確かにプロフェッショナルサービスなどの要員が参画することはありますが、プロジェクト全体の工数…というか工数と言う概念が薄い。確かに課金はしてるのですから、彼らも何人日・何人月分の稼動だと計算することはできるでしょうが…そんなものは事例を纏めたマーケティング側やプロダクトマネージメント側では把握もしていません。
恐らく、きちんとしたベンダーなら、リファレンスサイトとして幾つかのお客様を紹介してくれると思います。もちろん、「ニューヨークの本社です」とか「イタリアの田舎にある本社で」とかって海外出張をお願いすることになりますが。(私の知っている範囲で、こういったカスタマービジットはお客様の自己負担になります)

ところが、こう言っても「事例が出せないなんて、それでどう売れと」と迫ってくるSIer代理店さんもいらっしゃいます。特に記憶に鮮明なのは、あるグローバル企業と言っていい会社さんでした。米国では既に共同で展開が進んでいて、日本で後追いかけのような形で展開する、担ぐという状況だったのです。また、事例として公開していた中には、その会社さんとの「コラボレーションです」とキチンと書いてあるものがあったのです。ところが、実際に伺うと「アメリカの事例。あれの詳細をだしてくれ」といきなり言われてしまいました。正直「あひゃ」と言う叫びが心の中で止まっていてくれたかが心配になるくらいのレベルで(笑)。「はい。本社に問い合わせます。が、恐らく御社で共有されていなければ、弊社でも共有は難しいかと思います」と答えたのです。すると「うちの会社は大きいから、誰に聞いていいのか判らない。貴社で調達してくれ」と…。再び「あひゃ」です。
「弊社で担当していた人間は特定できますが、恐らく、そこを経由して御社で御確認を頂いた方が得策と思います。こちらで社内開示として情報を得ても、御社、そしてお客様の同意が必要です」と…。
先ほども書いたとおり、事例はお客様のものです。カタログやサイトに書いた内容を越える情報を持っていても、こちらが気づかないのマル秘情報が含まれている可能性もあるのです。そして、「社内で聞くべき人間がいない」というのは、嘘・はったりの可能性もあります。つまり、三社で合意が取れなければ、そんなに詳細は出せないのですYO!!。というしかないのですね。

更に悪いのは(これは、こちらの対応も含めて)、口頭で伝えたことを更に詳しくって奴です。
これも外資にいた頃、本社からプロダクトマネージャーがやってきて、幾つかの代理店さんに訪問しました。で、プレゼンには記載していない、とある顧客の話をしていたのですね。その時に同席していなかった私に、営業から連絡が来ました「◎◎が導入中のX社の話をしたんだけど、文書にしてもらえる?」と。これは、一応、本社の◎◎に話はしました。が「ん?ダメ。だから言葉だけね」と(笑)。これを営業に伝えたら…、まぁ怒られた(なぜか)。どうやら、詳細事例として提示をコミットしちゃったんですねぇ…。そりゃダメだって(笑)。まぁ、中には会話をメモして、それをサイトに提示しようと企んだ方もいますが…。

 

更に話もあるんです。

外資にいると、ほぼ定期的に新製品や新機能が提供され、プレスリリースされます。で、これを説明しに既存のお客様や代理店さんに説明しに行くのもプリセールスのお仕事です。で、お客様なら「これで今まで残課題になっていた○○に適用できると思っています」とかって言うのを説明の結びにしてディスカッションに入るのが理想です。代理店さんだと「▲▲さんに説明したら、なにか出るかね?」的なフリが出てくるように誘導していきます。

お客様だと比較的、こちらの意図するような方向で話ができるのですが、代理店さんだと、こうならないことが少なくないのですね。で、代わりに出てくる質問が「で、これの事例は?」です…。新製品・新機能ですよ…。(笑)