社長。決断です!

外資の社員だったり、あるいは海外製品の代理店をやっていると、どうしても国外に住む外人との接点ができてきます。その中で、お互いの常識の違いに気づく事が少なくありません。
ただ、「日本 vs. 外国」と言う比較は、とても使いやすいのですが、的外れになることも少なくありませんね。聞いていると「それ、アメリカだったら同意だけど、シンガポールでは違うよね」とか…(まぁ、いつものテキトーな例です。スイマセン)。
ただ、一般的に思うこととして「職責の重さ」「上意下達」、そして「階級」の違いです。

以前、ヨーロッパの会社に勤めていた頃、本社への出張で本社まで営業と二人で飛んでいきました。小さな会社で、エアはこちらで手配したのですが、ホテルは本社側が提携でもしていたのでしょうか…手配をしてくれました。そしてチェックイン。ここで営業と私はフロアが違うということで分かれたのですが…。奴が私の部屋へ電源アダプターを借りにきて「あら〜っ」と声を上げました。部屋の広さが全然違うというのです。私のは、ワンルームのビジネスホテルみたいな感じですが、彼の部屋は2部屋あると…。ここで気づきました。彼には「マネージャー」のタイトルがついていたのですが、私は「スペシャリスト」だったんですね。「あー、これが階級社会か」と納得せざるを得ませんでした。

さて、そんな恨み言のような事から書き始めましたが、少なくとも大抵の海外の会社では、表層的にはとてもフラットな組織構成に見えるかと思います。上司や社長をファーストネームで呼ぶ組織も少なくありません。しかし、実態としては階級、職位がモノを言います。日本であれば実質はマネージャークラスに権限が与えられているような事項でも、一々、法務のチェック、社長レビューを得ないと何も進められないこともあるのです。それだけ社長(CEO/COO、あるいは担当EVPなど)の権限や責任が強固に定義されているのです。
「うちの会社だって上司には逆らえないよ」と言われるかも知れませんが、海外の会社で上司や社長の愚痴を聞いたことは殆ど無いんですね。

さて、そんな責任・権限が当たり前になっていると、製品やサービスが訴求すべきは対象は経営層になるのです。
もしかしたら国内でも実践している会社があるかも知れませんが、外資に入るとセールスライフサイクルのガイダンスを受ける事が少なくありません。内容は引合から契約までの役割分担が主なのですが、その期間を段階にして示しているのです。例えば、担当者に会った⇒製品のプレゼンを行った⇒デモを行った⇒経営層に対してプレゼンを行った
とかですね。
で、この段階に従って「成約確率」が割り振られています。
「んな無茶な。取締役には何度も会ったけど、決まらないよ」と言われる方も多いと思いますが、とにかく「成約確率=セールス段階」なのです。確かに日本では例え社長がポジティブに反応しても、中間管理職や現場にダメだしされて失注するケースが少なくありませんが…。
逆に社長などに会えずに失注するとどうなるか判りますか?酷い場合にはパワハラと言う表現が生易しいくらいの暴言をカントリーマネージャーに食らうこともあります。あるいは海外の統括マネージャーから「無能」と言われることも。彼らから見れば正規のプロセスを実践していなかったから失注したのだろうと思っているのでしょう。あるいは、実践する能力すらないと。

なぜ海外では社長の決断が効いてくるのでしょう?
IT業界しか知らないので、その視点で書けば…「ITの改善は自社収益の改善、つまり社長の責任に直結する」と言うことだと思うのです。
以前、欧州系の銀行での事例を聞いて、基本的な環境や諸条件は日本も同じだろうと思い込んでいた事があります。そこで、その事例を説明してくれた人間に「これはどこら辺が先端的な試みなのか?適用前と適用後の違いを少し掘り下げて説明してくれないか?」と頼んだところ、かなり深く掘り下げた超シンプルな回答がありました。「以前の環境でも日本の銀行にはできていなかった。もし説明してくれた内容を実現しようとすれば、かなり長い時間が必要」といわれたのです。
そこまでの情報を仕入れて、ある金融機関でホボ受け売りのような説明をしたところ、余り反応がありません。冷や汗が流れ落ちそうなところで、先方の最上位参加者(マネージャー)が「この説明で、うちが参考にすべきところは?」と言う質問が飛んできました。冷や汗が止まって引いていく感じがあったのです。
聞きかじった内容を披瀝する機会が来たのです。すると「あーーー。確かに、欧州地域だけじゃなく国内もできてないな」といった反応があったのです。関係者でもパッとは閃かない程度の違いなのですが、それが人材の確保や流出、収益機会の損失などにも関係していたのです。
問題は、ここからです。このマネージャー氏、程なく退職されてしまうのですが、この銀行に限らず小さなITでのケチりが収益など幅広な影響を与えていることに経営は、どれほど興味があるのでしょうか?
時に「ITは専門家じゃないと判らない」と仰る方も多いのです。ただ、この言葉、日本だけで許されていると思った方が良いでしょう。

従来から銀行におけるITは生命線と言われていました。それでも彼我の差は小さくありません。企業の規模に関係なく、適所で活用可能なITソリューションを適用していなければ生き残りも厳しい状態だと思っています。
また、このblogで書いてきたように、出入りしているIT企業が適切な提案を出せる状況には無いのですね。いや、提案があってもリーズナブル(単に安いのではなく、論理的な)価格で実装ができているとは思えないのです。
本当に為すべきことはトップダウンで「不便」をITの改善に反映し続けること、そして全社的に便利なITを探し続けることだと思うのです。
「欲しがりません勝つまでは」の清貧を美徳とするのも良いのです。が、それで生き残れる人材や知見がないのであれば、それを補いえるのがITの力だと思うのです。「不便の改善」⇒「収益への影響」…社長さん、試算してみては如何でしょうか?