外資のベンダーにいた当時でも、また国内のIT会社にいたときも、基本的にプライム、事業会社との直接契約となる立場で提案やプロジェクトに参加していました。
例外的に、事業会社のIT部門が分社し、その会社との契約となったとしても、基本形は「お客様=事業会社」となる訳です。
この位置づけの会社と下請SES会社とでは、色々なところが違っていますね。

・お客様とは?
 一般に「お客様」と言えば、事業会社を指している訳ですが、下請SES会社の場合、商流で上側全てを「お客様」とする場面を見ています。そのため、
 Aさん「お客さんが○○をして欲しいって」
 Bさん「了解。でも△△部では違うこと言ってたよ」
 Aさん「いや、■■社からの要望だよ」
 Bさん「あれ?■■と△△部って会話してる?」
とややこしいやり取りが発生します。
そのため、事業会社側を「銀行さん」とか「食品さん」、あるいは元請を社名でと意図的に区別する必要が出てきます。
つまり「顧客第一主義」であるとか「顧客満足度」と言う言葉の対象が曖昧になっていると言う図式が、簡単に成立しているのです。

ある下請SESを中心にしている会社についてですが、お客様満足度調査を実施した話を聞き、笑ってしまった事があります。
一応、毎年、顧客満足度調査を行っているそうなのですが、毎年、調査項目が変わっていたそうです。取引開始から3年目ぐらいを経過した事業会社さん、つまりSES会社にとっては珍しいプライム契約先から「去年も一昨年も違う項目に答えを書いているんだけど、何が改善されたのか全くわからないね。単なるアンケートなら時間の無駄だよ」と突き返されたと言うのです。
SES会社としては不満点を拾い上げようという意図だったそうなのですが、「定点観測」をすると言う定量的な把握の意図は無かったのでしょう。また、調査担当者が現場にフィードバックをする度に、項目の過不足を指摘されるために「改善」と称して本来の目的を見失っていたのでしょう。
ただ、調査担当者の立場になれば会社の主務であるSESでのビジネスで顧客満足度を上げようと思えば「(単価が)安い、(好きなときに要員調達してくれて)重宝、(ある程度)高度なスキルがある」と言う三点しか念頭になかったのではないかと思うのです。
では、プライムの立場で同じ三点セットが顧客満足に繋がるのでしょうか?私の経験では「全く違う」事になります。
・業種、業務、あるいは対象となる技術への高い専門性
・専門性に基づく顧客課題の理解
・顧客課題に対する提案能力
だと思うのです。

従来、ゼネコン的なプライムベンダーさんの多くは、お客様との長い付き合いの中で
・タイミング:サポート期限などによる刷新
・外部要因:法令改正などによる調査、改修
・新技術:新製品や新提携先などのプロモーション
など一種、ルーティーン化された中から折々のメニューを出していくことで、お客様IT部門との会話を端緒に提案を出していく事ができました。
ところが(以前にも書いたことですが)、IT部門がお客様部門の中で主導的立場を取れなくなっている状況があり、このルーティーンが崩れ始めたと思うのです。まだまだ硬いとは思いますが、幾つかのソリューション分野を見ている限り、主導権・決定権は業務部門に移っています。
この変化は、本来、中小のIT企業には等しくチャンスとなっても良いのですが、下請SESは全くの蚊帳の外と言っても過言ではないでしょう。「チャネルがないから仕方ない」と言う話も出ますが、実際にはチャネルとなる業務部門にアクセスする『術』が無いのです。
ある小さなIT企業を見ていると、サイト上では「コンサルテーション」が主務のように見えるのですが、実態は米系SaaSの代理店が主業務になっています。元来、この会社が持っていたチャネルでは、中小規模の事業会社しかリーチできませんでした。しかし、代理店になることによって、自社への問い合わせ以外に、SaaSベンダーへの国内問い合わせも引合として使えるようになったのです。この事でバラ色とは言えないまでも(正直、私からは信じられないくらい)某巨大事業会社へのSaaS導入を展開しているのです。

少々、きつい言い方をすれば、頭の固いお年寄りの営業経験者さんには理解できないでしょうが、あなたたちが恐れ奉った「ブランド」は、過日のような輝きで全てに優先することはなくなっているのです。その輝きにトラウマを植えつけられ、あるいは培われた成功体験は若い企業家やエンジニアにとって毒にこそなれ、役に立つものではありません。
寧ろ、若い人たちに負けないよう勉強をしてください。